第3話 紅葉

学校をサボるなど、初めてのことだった。

前を喜色満面で歩く彩佳に、そっと聞いてみる。


「なあ、こういうことよくするのか?」


「んー?しないよ?初めてだよ」


悠真は、心底びっくりした。

どう見ても、慣れているようにしか見えなかったからだ。


「…羨ましいな、なんか…」


「えー?」


彼女は不思議そうに足を止めた。

自然と少し後ろを歩いていた悠真は、彩佳と並ぶ形になってしまう。


「なんで?」


「いや、思ったことをすぐ行動に移すって…僕にはできないことだからさ」


「あたし、別にそんなつもりないけど…でも、君にだってできてるじゃない!」


彼女は無邪気に笑い、また身を翻して駆けて行く。

___君に引きずられてきちゃっただけだよ・・・僕は。

そう思ったが、やはり言葉には出せなかった。


「ねえ悠くん、ずっと思ってたんだけど、髪の毛に葉っぱ留まってるよ?」


「ええ!?」


「ふふ、取ってあげるからちょっと頭下げて。もう、背高いんだから」


「そんな高い方じゃないんだけどな」


「あたしにとっては高いよ__はい、取れた」


そう言って彩佳は、取れた葉っぱをかざして見せた。

紅葉のようだった。

だが、ひどく色褪せていて、よく見ないとわからない。


「紅葉、きれいだったのにね。すぐ散っちゃった。紅葉の絨毯、悠くんと歩いてみたかったな…なーんて♪」


「うん…僕も」


うっかりそんなことを言うと、彼女は驚いたようにこちらを見た。

ばちんと目が合う。

悠真には、そんな免疫はない。


「いや…ちょっと_なんでもな」

「嬉しい!」


彩佳は嬉しそうに笑うと、悠真の手をぎゅっと握る。

あたたかい。


「や、え、ちょっと!?」


「いいじゃんいいじゃん!カレカノに見えるかもね!」


「恥ずかしいって…!」


「嫌なの?」


「…嫌じゃないけど…」


彼女はまた愉悦の笑みを見せ、悠真とつないだ手を前後に大きく振った。

えへへ、悠くんの手ぇおっきーい、などと言って。

悠真は内心照れながら、反対の手で頭をかく。

___初対面なのに、ずかずか人の心の中に入り込んできやがって・・・。

ちらっと隣を歩く少女を見る。

”無邪気”という言葉がなにより似合う。

___でも、嫌じゃない。

そんな感情が浮かんできて、悠真は驚いた。

先ほどまで屋上の影で泣いていた自分とは、別人のようだった。


確かに、満開の紅葉は、言い表せないほどきれいだっただろう。

だが、こんな冬直前の葉のない気が立ち並ぶ街路でも。


君と一緒なら、色づいて見える。






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