第7話

酒井は車の後部座席に乗り込んだ。

横を見ると、白髪混じりの中年のおっさんが座っており、さらに助手席の方には薄毛のおっさんが座っていた。


「ねーねー。おやつは?」


酒井は運転席のつるっぱげの男に尋ねた。

しかし、男はおやつをくれず、


「うるせぇ、黙ってろガキ」


すごんできたのであった。


そして、車は発進した。


酒井はまた文句を言った。


「ねぇ!おやつどこにあるの?」


「うるせぇ!運転中に話しかけんな!大人しく座ってろ、ブス!」


「なんだとー!このハゲッ!話が違うだろーッ!」


言い返すと、ハゲ男からゲンコツが飛んできた。

それでも酒井は黙っていなかった。


「おじさんたち、本当はおやつ持ってないんでしょ!」


すると、ハゲ男は笑いだした。


「当たり前だろ?そんなことより、お前の名前と電話番号を教えろ」


酒井は正直に答えた。

ついでに年齢と誕生日と血液型も教えてやった。

隣に座る白髪男はせっせとメモをとっていた。


「お前が八歳?」


と、怪しむようにハゲ男はチラリと酒井を振り返った。


「その図体ずうたいで八歳だと?信じられんな。身長いくつあるんだ?」


「うるさいなー!でかくて何が悪いんだよ!そう言うおっさん達の方が私よりずっとデカイじゃん!」


酒井の気迫に、男達は若干面食らっているようだ。


「ねぇ、おっさん達は名前なんていうの?」


酒井は一応聞いてみた。


最初にハゲ男が答えた。


「俺は秀三郎ひでさぶろう。秀くんで結構」


次に隣に座る白髪男が名乗った。


「俺は正昭まさあき。正くんで結構」


最後は助手席の薄毛だった。


「俺はやすし。ヤスくんで結構」


「ふーん」


聞いておきながら、酒井の反応は薄かった。


「それよかさー」と酒井は話題を変えて、


「これからスーパーいくんでしょ?」と尋ねた。


「は?何しに?」


きょとんとする男達。


「何って、おやつ買いに行くんでしょ?」と酒井。


「は?行かねーよ」


「じゃあ、なんで私を車に乗せたの?」


男達は黙って顔を見合わせた。


すると、ふいに酒井はハッと気が付いて、


「わかった!ユウカイってやつでしょ!」


と得意気に叫んだ。


男達はげらげらと笑いだした。


「今頃気付いたのかよ?おっせーんだよ!バーカ!」


「今すぐおろしてよ!」


酒井は怒って立ち上がった。


「おろすわけねーだろ」


「じゃ、おやつ買ってよ」


「やだね」


「むかつくー!」


酒井は車の中で地団駄じだんだを踏んだ。


その間、助手席にいるやすくんが、酒井の家に電話をかけていた。


『はい、酒井です』


母嘉子の声が応答した。


「お前の娘は預かった」


と、いきなりやすくんは切り出した。


「無事に返して欲しければ、百万円用意しろ。わかったな」


『なんですって?舞由李が?そんなバカな!』


母はまったく信じていないようである。


『あの凶暴きょうぼうな舞由李が、おとなしく誘拐なんてされるもんですか!』


すると今度は秀くんが電話に代わってこう言った。


「お前の娘はおやつに吊られて俺たちについてきたぞ。おとなしくな」


母はすっかり呆れ返っていた。


『まぁ!なんて子でしょう!本当バカねぇ!しょうがないから警察に連絡しておくわ』


そこで電話は切れた。


「お母さん、何て言ってた?私のこと心配してた?」


さっそく酒井は聞いた。


秀くんはありのままをつたえた。


「お前に呆れていたぞ。バカな子だと言ってた」


「あのクソババー!もう二度とうちになんて帰るもんか!」


「それじゃ、俺たちと一緒に来るか?」


秀くんがニヤリと笑ってそう聞いた。


「えっ?仲間にいれてくれるの?」


酒井は目を輝かせた。


「本当にいいんすか?リーダー?」


と、正くんが秀くんに念を押す。


「ああ」と秀くんは頷いた。


こうして酒井は誘拐犯グループの仲間になったのであった。

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