第6話
今日は酒井の家庭訪問の日である。
「舞由李。あんたは邪魔だからどこかへ遊びに行ってきなさい」
母嘉子が命令した。
「ふん!言われなくたって、出ていきますよーだ!」
酒井は母に向かってあかんべえをし、とっとことっとこ家を出ていった。
そしていつものように公園に行き、一人でブランコに乗って遊びはじめた。
やがてブランコに飽き、今度は鉄棒をやり始めた。
逆上がりに挑戦してみたが、失敗して地面に落ちてしまった。
酒井はつまらなくなり、公園を出てそろそろ家に帰ることにした。
家に帰ると、ちょうどリビングで母と先生が話している最中であった。
酒井は廊下に立ち、二人の話をこっそり盗み聞きすることにした。
「お宅の舞由李さん、いくつか問題があるのですが、おっしゃってもよろしいでしょうか?」
と、先生の声が言った。
「はい、勿論」
と元気よく母が返事した。
先生は咳払いをしてから、きびきびと話し始めた。
「まずは、遅刻です!毎朝一時間目が始まるギリギリの時間に登校されるのは困ります。きちんと8時20分までに席に座っていてもらわないと!それから、人に対する態度がよろしくありません!この間も、私が舞由李さんの汚れたパンツとズボンをそれは綺麗に洗ってやったというのに、お礼の一つも言わないんですよ」
「まぁ!」と母の呆れた声。
酒井は耐えきれず、ズカズカとリビングに入っていった。
「ちょっと、先生!何が“綺麗に洗ってあげた”だよ!全然綺麗じゃなかったし!シミついてたじゃん!お礼なんて言う必要ありませんよーだ!」
「こら、舞由李!」
母は立ち上がって酒井を怒鳴り付けた。
「先生になんて口利くの!謝りなさい!」
「うるさい!あんたの出る幕じゃない!これは私と先生の問題なんだから!黙ってて!」
母は大人しくなった。
代わりに、今度は先生が口を開いた。
「酒井さん、どうしてあなたはすぐキレるんですか!親に対していつもそんな反抗的なの?」
「そうだよ、文句ある?」
「大有りです。そんな反抗的な生徒はこのクラスにいりません」
「なんだとー!てめぇみたいな先生もこのクラスにいらねーよ!」
酒井はカンカンに怒って、はいていた靴下を脱ぎ、先生に向かって勢いよく投げつけた。
靴下は見事先生の顔面に命中した。
「ぎゃあぁぁぁあ!!」
先生は床に倒れ、もがき苦しんでいた。
「やーい!やーい!」と酒井は大喜びで、はしゃぎ回っていた。
「なんてことするの!舞由李!」
母は激怒して酒井を捕まえようとしたが、酒井はその手をすり抜け、家を飛び出して行った。
「もうこんな家、出ていってやる!」
酒井は家出を決意した。勿論、荷物は一つも持っていない。
歩道を歩いていたその時、突然一台の車が酒井の目の前に止まった。
くすんだ青い車で、車体のあちこちがへこんでいる。
運転席の窓が開き、中の男が酒井に話し掛けてきた。
頭には産毛一つ生えておらず、サングラスをかけた怪しげな男である。
「お嬢ちゃん、お菓子あげるから、車に乗りな」
ちょうど空腹だった酒井は、大喜びで車に乗り込んだ。
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