第5話

放課後、担任の佐藤先生は酒井を職員室に呼び出してこう言った。


「酒井さん、あなたどういうつもりですか?」


「何がですか?」


酒井はとぼけてみせた。


「“何がですか”じゃありません。トイレに行きたいのなら、我慢せずに行きたいって言わなきゃ駄目じゃない。おかげであなたのパンツとズボンは大変なことになったのよ」


「これは私個人の問題です。先生にとやかく言われる筋合いはありません」


「あなた、いつもそんな口調ね。成績下げるわよ。それに随分と偉そうにしてるけど、あなたのズボンとパンツ洗ったのは誰だと思ってるの?」


「保健室の先生でしょ?」


「私よ」


そう言って、先生は酒井に洗い立てのズボンとパンツを差し出した。


酒井はそれらをまじまじと見つめながら、


「これ、本当に洗ったつもり?なんかまだパンツにシミがついてるけど?」


と文句を言った。


「それは元々ついてたシミよ。新しいパンツ買った方がいいんじゃない?こんなのびのびのパンツじゃなくて、もっと女の子らしい可愛いパンツを買いなさい」


刺々しく返す先生。


酒井はふんと鼻をならし、ズボンとパンツを持って回れ右をした。


「ちょっと酒井さん!まだ話は終わってないわよ」


職員室から去ろうとする酒井を、先生が慌てて呼び止める。


「うるさいなぁ…。まだパンツの話したいわけ?」


「はぁ?」


きょとんとする先生。


「パンツの話は聞き飽きたっつーの!」


「パンツの話じゃありません。いいからとっとと戻って来なさい!」


先生に怒鳴り付けられ、酒井はしぶしぶ戻ってきた。


「なにさ、話って」


ぶすっとした顔で酒井が尋ねる。


「あなた、家庭訪問の希望日時の紙、まだ出してないでしょ?」


「あ~あの紙ね…」


どうでもよさそうに呟く酒井。


「あの紙ならとっくに捨てたよ」


「は?!捨てた?!」


先生は眉を吊り上げて怒りだした。

一方、酒井は平然としている。


「だって、家庭訪問で先生来るのやだもん!」


「じゃあ、いいわよ」


突然先生はふいとそっぽを向いて冷たい口調になった。


「今からあなたのお母さんに電話して、直接聞きますからね」


「え?!聞かなくていいってば!」


酒井は電話に手を伸ばそうとする先生にしがみついた。

先生はふふんと勝ち誇ったように鼻を鳴らし、新たな家庭訪問希望調査書を酒井に手渡した。


「電話されるのが嫌なら、お母さんにこの紙を見せて、明日までに私のところへ持ってきなさい」


「チッ…わかったよ」


そう返事しながらも、酒井は家に帰るとすぐにその紙をゴミ箱に捨てた。


しかし夕方、不運にも母嘉子は、たまたまそのゴミ箱の中に結婚指輪を落としてしまった。

しばらく中を漁っていると、ぐしゃぐしゃになった家庭訪問希望調査の紙が出てきたのである。


「舞由李ー!」


当然ながら、母は激怒して娘の部屋に直行した。


「なにさ、大声出して。私今ゲームしてんだから邪魔しないでくれる?」


「この紙はなんなの?!」


母はゲーム機のコンセントを抜き、酒井にグシャグシャになった家庭訪問の紙を突き付けた。


「あ…その紙は…!くそー!勝手にゴミ箱漁りやがって!このクソババー!」


「何がババーよ!このクソガキ!この紙はしっかり書かせてもらいますからね!」


「そんなぁ~!」

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