第2話

「さて、そろそろ帰ろうっと」


夕方になり、酒井は家に帰ろうとした。


「あ、ポテトチップスも持って帰らないと」


と、ポテチも手に持った。


酒井は屈託のない表情で、てくてくと陽気に歩き出した。


ところが家に帰って玄関のドアを開けようとすると、なぜか鍵が掛かっていた。


「ちょっと、お母さん!開けてよ!」


家の中から反応はない。


酒井はどんどんドアを叩きながら大声で叫んだ。


「お母さーん!おばあちゃーん!いるんでしょ!開けてよー!!」


すると、冷たい母の声が返ってきた。


「悪い子は家に入れてあげません」


酒井は即座に言い返した。


「私、悪い子じゃない!良い子だもん!」


「どこがじゃ!」と、すかさず祖母が突っ込んできた。


「いいから開けてよー!!」


酒井はさらに大声で叫んだ。


「近所迷惑でしょ!静かになさい!」


母に怒鳴られ、酒井は大人しく口を閉ざした。


すると数秒後、郵便受けの穴から、何かがゆっくり出てきた。


どうやら母が中から何かを送ってきたらしい。


郵便受けから出てきたソレは、ガシャンと派手な音をたてて地面に落ちた。


食べ物かと期待しながら、酒井は落ちたソレを拾った。


しかし、それは食べ物ではなく、ただの鏡であった。


「あ…鏡だ!」


酒井はさっそく自分の顔を鏡に映してみた。


「うわっ!ひどい髪!」


酒井は予想以上の酷いヘアスタイルにショックを受けた。


「くそー!あの悪ガキ共め!今度会ったらパンツ脱がしてトイレに流してやる!」


と、酒井は一人、固く決心した。


締め出されてから三十分ほどが経過した。


酒井は叫ぶのをやめて、そっと母に呼び掛けた。


「ねぇ、お母さん。そろそろ中に入れてくれない?」


「反省したの?」


「したした」


「嘘ばっかり」


「本当だよ」


「じゃあ、もうおやつバクバク食べない?」


「うん」


「お母さんのことをオニババとかクソババアとか呼ばない?」


「うん、呼ばない」


「妹の面倒もちゃんとみる?」


「うん、みる」


「じゃあ、いいわよ」


母はようやくドアを開けた。


「あ~疲れた!腹減ったー!」


家に入るなり、酒井はポテチの袋を開け、むしゃむしゃとむさぼりはじめた。


「お姉ちゃん、いけないんだ!」


幼稚園児の妹が言った。


「うっせーよ、このクソガキ!」


酒井は妹に平手打ちを食らわせた。


妹はギャンギャン泣き始めた。


「こら、舞由李!さっき約束したでしょ!あんたなんかもううちの子じゃありません!」


「ふん!私だってこんな家に生まれたくなかったよ!」


酒井はふてくされて自分の部屋に閉じこもってしまった。

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