第17話 花子さんと遊ぼう! ②
「あー、デートなんてどうすればいいんだよ」
花子さんと約束をしたその夜、俺はネットの海を漂いながら呻いていた。
どれもこれも、みやびのせいだ。
学校のトイレから出ることの出来ない花子さんに対し、はじめは俺だって必死に断った。というか幽霊とデートなんぞ聞いたことがないし、どうやってこのトイレから抜け出すのか。という問に対して、花子さんはみやびに憑依するという方法を提示した。
普通の人には憑依できないが、どうやらみやびは霊との適正がとても高く、いとも簡単に憑依することができるらしい。実際学校でもやってもらったが、みやびの元気あり余ってます! 的な動きが、憑依後だと手も足も流れるような動きで無駄がなくなり、それは本当に花子さんが憑依しているのだと疑いようがなかった。まだ体の中に奇力も残っているから、そのせいで憑依しやすいのかもしれない。
それからはみやびの必死の説得(拒否権はほぼなし)と花子さんの涙ぐんだ目に負けて俺はそれを了承してしまった。日時は明々後日の土曜日、待ち合わせは13時だ。土曜日も部活をしている人のために学校は開いているから、待ち合わせ前にみやびが学校へ向かい花子さんを憑依させて行くことになった。
まぁ、つまり、俺は中身が花子さんの見た目がみやびというよくわからん人とデートすることになるのだ。
デートコースはお任せします、と花子さんに言われているから、こうやっていろいろ探してはいるのだけれど……みやびの好みはわかるし、行きたそうなところもわかるが、花子さんの好みは全くわからない。あの見た目から高級ホテルのビュッフェとかに行けばいいのかと思ったけど、その値段は学生に簡単に出せるものではなかった。おまけにデートスポットを探しているうちにいつの間にか行き場所はみやびの好きそうな場所にシフトしてしまう。姿形はみやびだから、どうにも混乱してしまうのだ。
「なんでこんなことに……」
またみやびが好きそうな雰囲気の喫茶店を見つけ、そうじゃないと思っていた時に、隣にあった携帯が震えた。
『私、こことここに行ってみたいからよろしくー』
そんなメッセージと共に、URLが貼り付けてある。それは今さっき俺が調べていた場所とまったく同じ場所だった。
「だからみやびと行くんじゃないってのに……」
俺はそのメールを見て呆れると同時に、なんか吹っ切れた気がしてさっきの喫茶店の場所を調べ始めた。どちらにしろ花子さんのことなんてこれっぽっちも知らないのだ。今日初めて会ったんだから何が好きか知らないなんて当たり前、だからせめて、俺が好みを知っている唯一の同年代女子、みやびの好きそうなところへ行こう。みやびだって一応は女の子だし、それで喜んでくれる場所もあるかもしれない。まぁ無かったら無かったでその時は臨機応変に。
俺はみやびのメールにもあった喫茶店をデートコースに入れて、予定を組み立て始めた。
◇ ◇ ◇
そして、デート当日。
散々服装に悩んだ後、無難にジーンズとTシャツを来て、俺は街の中心、よく待ち合わせに使われている銅像の前にいた。周りには同じように待ち合わせをしている人がいて、なんか本当にこんなところにいていいのかと自問自答してしまう。
しかし、相手はなんといってもあの花子さんだ。俺としての最終目標は無事に成仏してもらうことだから、ちゃんとエスコートして満足させねばならない。というか最悪の展開では俺が呪い殺されることも予測しているから、出来るだけベストを尽くそう。
よしこいや! と俺は背筋をしっかり伸ばして花子さんを待った。
……しかし、約束の時間の13時を回っても、花子さんはなかなか姿を現さなかった。幽霊だからそこらに霞んで見えたりするのかと辺りを見回すも特になし、みやびの携帯に連絡しても返信はなし、俺が待ち疲れてベンチを探しはじめた時に、花子さんはやっと姿を表した。
「す、すいません。遅れてしまいました……」
肩で息をし、若干汗をかいたみやび……じゃない、花子さんがそこにはいた。
花子さんはシンプルな花柄のワンピースを着ていた。スカート丈が結構短めで、歩く度に裾がふわりと弾むようにゆれる。手首には金のブレスレット、同じ十字のモチーフがついたネックレスもしている。
俺はその姿に思わず息をするのを忘れて見入ってしまった。なにしろ、みやびは学校以外でスカートを履かない。動きづらいのが嫌らしく、中学になってからはまったく見たことはなかった。それに、同じ理由でネックレスなどの小物も一切したことがない。しかしいざそうやってアクセサリーを付けているみやびを見ると、とても不覚だが俺は素直に可愛いと思ってしまった。
「秀一さん? どうしました?」
乱れた髪を整え、まっすぐと俺を見る。中に入っているのは花子さんだ。みやびは秀一さんなんて呼び方はしないし、首を少し傾げるなんてそんな可愛らしい仕草もしない。
「いや、ずいぶんと遅かったな」
うまく声を出せて少しホッとする、なに緊張しているんだ俺は。
「遅れたのはお詫びいたします。それには理由がありまして……、すいません、少しだけどこかで休ませていただけませんか? ……なにか注目を集めている気もしますので」
そう言われて周りを見ると、確かに待ち合わせにいた多くの人たちにちらちらと見られている気がした、主に男に。その理由に納得し、俺達は近くのコーヒーショップへと入った。
「ありがとうございます、助かりました」
アイスカフェラテを目の前にした花子さんがふぅ、と一息ついた。まぁファンクラブが出来るほどのみやびが、そんな格好してきたらしょうがない気もする。
「それで?」
俺もアイスコーヒーを口に含み、先を促した。花子さんは呆れたように笑い、みやびが迎えに来た時のことを話しだした。
「みやびさんは待ち合わせの30分前ぴったりに私を迎えに来てくれました。それはよかったのですが……その、なんというか、みやびさんの格好がとてもデート向きの格好ではなく……」
なんとなく想像がつく。いつもと同じく、動きやすいということを大前提とした服装をしてきたのだろう。
「私は急いでみやびさんの中にお邪魔して、一度家に戻りました。衣装箱をひっくり返して、なんとか私がぎりぎり譲歩できる服装がこれだけだったのです」
「俺としてはよくそんなワンピース持ってたもんだと思った」
「まったく、信じられません。華の女子高生があんな服しか持っていないなんて! 流行とはなんのためにあるのかわかっていないようですよね?」
「というか、花子さんはわかってるの?」
「もちろん、私もありとあらゆる手段を駆使し、ファッションの流行には気を使っていますわ。そうでなければ素敵な殿方とは出会えませんもの」
ありとあらゆる、というところが少し気になったが、深く突っ込まないことにした。
「そういえば、みやびはどうなってるんだ? 花子さんの中にいるんだろ?」
「えぇ、今は私の中に……例えて言うならば、二重人格のようなものですね。少し特殊なのは、みやびさんもこの光景を見えている、ということでしょうか。手足などを動かすのは私ですが、心の動きなどはみやびさんと共有されていますね」
「それじゃみやびは今の格好はあんまり気に入ってないわけだから、花子さんの邪魔をしているわけだ」
「えぇ、格好についてはとても不満みたいですが、今日は私が主役のデートです、これだけは譲れませんもの。さて、一息つかせていただきましたし、そろそろ仕切りなおしといたしましょうか」
そう言って、花子さんは手を差し出した。流石にこの状況で、なにを求められているのかはわかるが、いつもみやびが勝手に手を掴んでいくのに、自分から手を繋ぐとなるとなんだか少し照れくさい感じがした。
「では、エスコートよろしくお願いいたします」
手の繋がれた花子さんは、とても嬉しそうに笑った。
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