第4話 ドッペルゲンガーと遊ぼう!
みやびの家に行く途中には、ちょうどよくコンビニがある。よくあるチェーン店だが、お菓子の種類が豊富で、なにかしらのキャンペーンをしているから俺もよく寄ってしまうのだ。今日は七百円以上買うとくじを引けるキャンペーンをやっていたので、お店の戦略に嵌ってるなーと思いながら寄ってみる。
少々寒いくらいの店内は、入るとすぐにレジがあるのだが、そこには意外にもみやびがいた。コンビニ袋を下げて、ちょうどくじを引くところだ。俺は歩きながらその様子を観察する。
みやびが箱の中から出したくじを店員に見せると、店員さんはすぐに2リットルのアップルティーを持ってきて袋に入れてくれた。
「へー、みやび結構運いいじゃん」
俺はあくまで普通に、いつものように声をかけたつもりだった。しかしみやびはその声に過剰に反応し、その驚きようは店員さんまでを伝染して驚かした。
ゆっくりこちらを見るみやびは、なぜが少し涙目だ。急に声をかけたのが悪かったのか?
いや、ん? なんかちょっと雰囲気が違うような――
「なぁ、みやび」
俺がもう一度声をかけると、みやびは一目散に店を出て行ってしまった。そんな拒絶されるような反応は初めてで、軽くショックだ。突っ立っていると、店員さんに不審な目で見られていることに気づき、俺はそそくさとコンビニを後にした。
今日も今日とて、みやびは俺を家に呼んでいたはずだけど、なんかマズいことでもあったか。一応携帯で行って良いのかメールしてみると、返信はすぐに返ってきた。
『40秒で家に来な!』
あー、これ昨日やってた映画か。本当に影響されやすいなアイツは。いつもと同じ反応に少し安心して、俺はみやびの家に向かった。
◇ ◇ ◇
「開けるぞー」
一言かけて、襖を開ける。さっき逃げた理由を聞いておかなければならないと思っていたが、その理由は襖の向こうにすでに用意されていた。
「さて、私はどーっちだ!」
そこには、2人のみやびがいたからだ。同じ制服、同じ格好をして、2人のみやびは俺の向かいに立っていた。あぁ、またなんか変なの捕まえてきたな、最近俺の感覚が慣れすぎてしまっていて少し不安だ。
「そっち」
俺はすぐに、右にいたみやびを指す。
「どるるるるるるるるるるる……正解! 商品はアップルティーでーす!」
下手なドラムロールを自分でやって、みやびにさっきコンビニで当たったアップルティーをもらった。俺アップルティーそんな好きじゃないんだけどな……。
「やっぱり、二人で過ごした絆があれば、見分けることなんて朝飯前昼飯前だよね! さっすが秀ちゃんー」
本当は正解のみやびが笑顔で、不正解のみやびが涙目というだけの簡単な間違い探しだったのだが、絆の力という理由にした方がみやびにしても都合が良さそうだから、なにも言わないでおく。
「んで、こっちのみやびは何者なんだよ」
涙目、というかすでに泣いているみやびBを不憫に思い、俺は説明を求める。
「あー、この人はドッペルゲンガーのペルーちゃんだよ。今日お友達になった」
「お友達じゃないですよ! もういいでしょう! 早く返してください!」
ドッペルゲンガーことペルーちゃんは、我慢しきれなくなったのか机をバンバン叩いて主張した。
「代わりに宿題されられて、コンビニにお使いに行かされ、こんなお遊びにも付き合わされ……、人間に捕まるととんでもないことになるって噂は本当だったんだ……私はこのまま、奴隷として生きていくしかないんだー!」
なんか本格的に泣き出してしまった。ドッペルゲンガーとわかっていても、泣いている姿や声はみやびそのものだからなんだか変な感じがする。
「みやび……、お前なにしてるんだよ」
「いやー、ちょっと調子に乗ってしまって。だって自分が二人いるなら、面倒なことは全部やってもらいたいでしょ?」
「気持ちはわからないでもないけど……、ペルーさんは実際には別人だし。つーか返して欲しいって言ってたけどなに奪ったんだよ」
「コレだよ?」
みやびが見せてくれたのは、どこからどう見てもただの葉っぱだった。
「そ、それっ! それを返してください! 早く帰らないと私、クビになっちゃいますよぉ!」
「んー、でもまだやってもらいたいことあるし。お風呂掃除と、片付けとー」
「みやび……お前容赦ないな」
俺はペルーさんの前に座り、詳しい事情を聞くことにした。あんまりみやびに非があるなら反省してもらわなければならない。
「んで、とりあえずみやびと会ったとこから話してもらおうかな。なんでこんな危険人物に接触しようとした?」
なんだとー、と文句を垂れるみやびは無視だ。
「本当は言っちゃいけないので、このことは口外無用ですよ。あなたがみやびさんより話が分かりそうな人だから話すんですからね。みやびさんと会ったのは私の今日のノルマの中にみやびさんが入っていたからです」
「ノルマ?」
「あっ、はい。私こういうものでして」
するとペルーさんはどこからともなく出した高そうな名刺入れから一枚取り出し、俺に差し出す。
「ビックリ仰天課、水仙町担当、第4グループ、味噌部多貫子……」
「えっと、私達ビックリ仰天課は、グループに分かれて人を驚かすのが仕事なのです。毎日上司からノルマが充てがわられ、そのノルマ全員を驚かせてないと反省文やら減給やら、酷い時は解雇までされます」
ペルーさんは大真面目に話しているが、まったくわけがわからない。
「えーっと、人を驚かしてどうするの?」
「それが仕事ですので」
「つまり会社員ってこと?」
「そうです。ついでに言うと公務員で、この職に就くのにも何百倍という倍率の試験をくぐり抜けなければいけないのです。学校の試験は違うのです」
なんかついでに批難された気がする。こんな状況なのに胸張って偉そうにしてるし。
「でも葉っぱを使うなんて、ペルーさんはまるで狸さんだねー」
葉っぱをひらひらさせながら、みやびがそれを唐突に口に運んだ。
「ぎゃー! やめてください! やめてください!」
「まずぅ……」
そりゃ葉っぱだもんな。
「その葉っぱは会社の固定資産なんですよぅ。それに狸みたいじゃなくて、ドッペルゲンガーは狸が驚かす方法の一つですので、もともと狸なんですよぉ」
「えっ、そうなの?」
びっくりな事実だ。俺の聞いたことがある話だと、世界にはそっくりな人が三人いて、それを見てしまうと近いうちに死んでしまうという迷信だ。もちろん、信じてはいなかったけど。
「えー、私が知ってるのは、ドッペルゲンガーを見ると幸福になるって話だったよー? 友達とも聞いたことあるって言ってたし。だから捕まえたのに」
「まぁ、迷信だからな……」
「びっくりさせる側としては、どっちでもいいです! お願いですよぉ、あなたからもなんとか言ってあの悪魔から葉っぱ取り返してくださいよぉ! 早く帰って書類整理しないといつまでも帰れないじゃないですかぁ!」
「うわっ、ちょっと離れろって!」
ペルーさんが俺に助けを求めて抱きついてくる。もうその顔は必死だ。立場から言えば俺が唯一ちゃんと話を聞いてくれた人になるんだろうけど、みやびの格好でくっつかれるのはよくない。みやびは子供っぽい性格のわりにいろいろと発育がいいのだ。
「ちょっと! ペルーさんと言えど私の手下の秀ちゃんにひっつくのは許さないよ!」
「だれが手下だっての! ってお前まで来るんじゃねぇ!」
正面から見ると、右にみやび、左にみやびという不思議な状況になっているだろうが、流石に俺も健全な男子高校生なわけで、これ以上みやびに体をもて遊ばれるのは良くない。俺はなんとかみやびの持っていた葉っぱを奪い、ペルーの頭の上に乗っけてやる。
ポン!
するとそんな音とともに、みやびの姿をしたペルーさんは普通の狸の姿に戻った。
「あっ、ありがとうございます! この御恩は一生忘れません!」
あっという間にその場を離脱し、狸の姿のまま器用に部屋の窓を開ける。
「この悪魔め! 二度と来ないからな!」
みやびに捨て台詞を吐いて、ペルーさんはあっという間に立ち去ってしまった。
「くそー、まだまだいっぱいやってもらうことあったのに……」
「あの、どうでもいいけど重いから避けてくれない?」
「重いとはなんだ! 私はこれでもスタイル維持のために努力を惜しまない女なんだぞー。毎日食後のプリンを我慢することを想像しながら食べてるんだから!」
「それって意味なっ!」
みやびは俺を言葉通り尻に敷いた、それで跳ねるもんだから腹の中の空気が一気に押し出される。
「ぐっ! うおっ! すいませんっでした!」
もう一体俺がいたら、この役目も絶対変わってもらうのにと思ったけど、残念ながら葉っぱはすでに手の中には無かった。
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