ん?今、リア充バトンが欲しいっていった?
ちびまるフォイ
そのバトンはリレーされてこない
「はぁ……俺もリア充バトン来ないかなぁ……」
どんな人間でも1度手にすればリア充になれるというバトン。
それは人から人へとリレーされているという噂。
「なぁ、あんたリア充バトン持ってない?」
「持ってねぇよ。つかリア充じゃないし」
「そうか……」
リア充っぽい人にいくら聞いてもバトンはない。
俺の捨て台詞はいつも同じ。
「もし、リア充バトンが渡ってきたら、次は必ず俺にくれよ!」
そうは言っても誰からも回って来たためしがない。
俺がリア充になったら、休日は友達と過ごして……。
彼女とかもできるんだろうな。
SNSに出先の写真を上げたりして……はぁ。
「なんだか想像してるだけで辛くなる……」
今の現実とのギャップで死にそうになる。
あれだけ声をかけたのにどうしてバトンが戻ってこないんだろう。
「……まさか、誰か一人がずっとキープしてるんじゃなかろうか」
そうとしか思えない。
一度、リア充体験をしてしまったが最後リレーしたくなくなるんだ。
だから俺の方までバトンが回ってこないんだ。
「くそっ、バトンをリレーしない奴誰だよ……!!」
顔の見えない相手に毒づいたが、どうしようもないのであきらめた。
イライラしてお腹が減ったのでコンビニに向かっていると、
ひと組の男同士がなにか交換しているのを偶然見かけた。
「あれは……リア充バトン!?」
見間違えようがなかった。
どれだけ心待ちにしても手に入らなかったものが今リレーされている。
こんなチャンスほかにない。
「よし、次は俺にお願いしますって声をかけよう!!」
走り寄ろうと動かした足だったがすぐに止まった。
「待てよ……これだけリア充バトンは回ってこなかったのに、
今さら回してと言っても、リレーしてくるだろうか……」
俺だったらキープして離さない。
どうして他人の幸せのために自分の幸せを手放す必要がある。
「こうなったら……盗むしかない!!」
リレーされた男を尾行して自宅を突き止めた。
寝静まったのを確認して、そっとリア充バトンを回収した。
「やった! ついに手に入ったぞ! 俺もリア充だ!」
バトンを手に入れた変化は翌日からはじまった。
「すげぇ! メッセージがこんなにも!?」
「遊びの約束で休日が足りないぜ!」
「わぁ! 飲み会の誘いがたくさん来てる!」
SNSやラインには既読しきれないほどのメッセージが届く。
遊びの約束も渋滞が起きるほど届き、毎日飲み会に誘われる。
「ああ、これだよ! これこそが俺の望んだリア充生活だよ!!」
ついに求めていたものを手に入れた。
もう絶対にリア充バトンは手放さないと誓った。
数日後、誓ったはずのその言葉を撤回した。
「リア充って……つらい……」
体には人疲れが蓄積してノイローゼ状態になっていた。
毎晩飲みに誘われて断るのも気を使う。
やっと休日になったかと思えばまた誘いが飛んでくる。
もういいって。
自分のやりたいことだけやれていた日々が懐かしい……。
「もう十分だ……リア充バトンをリレーしよう……」
リア充バトンを渡す決心ができた。
が。
「リア充バトン? いらないいらない」
「は? お断りだよ!」
「僕はいまの生活で満足してるんだよ!」
誰ひとり受け取ってもらえない。
みんなリア充の辛さを知っているんだ。
「そんなこと言わずに……き、きっと楽しいから!」
「「「 しつこい!! 」」」
結局、バトンは俺の手元に残った。
これがある限り、平穏な生活に戻ることはない。
「なにが憧れのリア充生活だよ……。
こんなの自分の時間がなくなるだけの罰ゲームじゃないか……。
こんな生活いっそぶっ壊れればいいのに……」
バトンを憎らしげに見つめていると思いついた。
「壊す……そうだよ! バトンを壊せばいいんだ!!」
やっとこの生活から抜け出す方法を思いついた。
取り戻せる。平穏で慎ましい俺の私生活を。
バトンを手に取ると、思い切りへし折った。
バキン!!
乾いた音とともにバトンはまっぷたつ。
こうして俺のリア充生活は幕を閉じた……。
新着メッセージが64件あります。
着信が28件あります。
「え゛っ……な、なにこれ!? 逆に増えてるじゃん!?」
リア充生活は幕を閉じなかった。
それどころか2倍になっている。
「まさか……これってリア充バトンを2つに増やしちゃったのか……!?」
俺は手元に残る2等分されたバトンを見て、絶望的な気持ちになった。
ん?今、リア充バトンが欲しいっていった? ちびまるフォイ @firestorage
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