タイムスリップ再び!

「トイレ、トイレ」


と言いながら、酒井はトイレに駆けこみました(ゴンちゃんの家のトイレ)。

ジャーと水を流し、いつものように便器の傍に屈みこんで水が流れるのを見つめていました。


すると突然、酒井は便器の中に引きつけられました。


「わ~!なんだこりゃ~!!」


そのまま便器の中に吸い込まれてしまいました。


どのくらいの時間が経ったのでしょう。気がつくと、酒井は便座に座っていました。ズボンは穿いたままです。


すると突然、ドンドンと扉をノックされました。


「お~い!酒井!やっぱり外で用を足すなんて恥ずかしすぎるよ!早くここから出てくれよ~!もう我慢の限界だ!」


齢41歳の堀川権蔵の声でした。

どうやら、元の時代に戻って来れたようです。しかし時間はあれからあまり経過していないようでした。

酒井はトイレから出て来るなり、堀川に聞きました。


「ねぇ、先生のお母さんて、今家にいる?」


「え?俺の母ちゃん?なんで?」


堀川が不思議そうに眉を寄せました。


「ちょっと個人的に用があって。会わせてくれない?」


「ああ、別にいいけど…」


堀川はさっそく母を連れて来ました。


「母ちゃん、俺の教え子が、母ちゃんに会いたいって言うんだけど」


「ほう?誰じゃ?」


酒井は堀川の母の傍に行き、名を名乗りました。

酒井の顔を見た途端、母は怪訝そうに首を傾げ、それからおずおずとこう聞きました。


「あのう、お嬢さん…。失礼なことをお聞きしますが、前にどこかでお会いしませんでしたかのう?」


「えーと…」


酒井は口ごもりながら、


「勘違いじゃありませんか?」


と適当に誤魔化しました。


「それより、お母さんに見て頂きたいものがあるんです」


そう言って、酒井はよぼよぼになった堀川の母を庭へ連れて行きました。


「ちょっと待っていてください」


酒井は花壇の前にしゃがみこみ、「ええっと、確かこの辺だったかな~」と呟きながら、土を掘り返し始めました。


「あった!」


酒井は土まみれのジャム瓶を拾い上げ、喜々として叫びました。

瓶の中には、小さく折りたたまれた紙が入っています。

酒井は瓶の中からその紙を取り出し、堀川の母の手に渡しました。


「お母さん、堀川先生が隠した算数のテストです」


「なんじゃと?」


母は紙を広げ、素早く中身に目を走らせました。

その表情が、みるみるうちに変わっていきます。


「こりゃー!権蔵ー!」


母の怒声に驚き、堀川が庭にやってきました。


「どうしたの、母ちゃん?」


「このテストは何なんだい?」


「え?」


突き付けられた答案を目にし、堀川は仰天しました。


「ゲッ!なんでこんなものがここに?」


「まったく!教師がこんな悪い点を取って!」


「いや、これはその…」


「言い訳は無用じゃ!」


母は堀川の耳を引っ張り、家の中へと連れて行きました。


「いてててて…!やめてよ、ママ~!」


「だっせ~」と酒井は密かに呟きました。


――END――

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トイレの水を流したら、三十年前にタイムスリップしてしまいました オブリガート @maplekasutera

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