ゴンちゃん、抜けない!
ゴンちゃんが便器にはまってしまったのは、夜中の十二時頃のことでした。
「あはははは!」
便器にはまっているゴンちゃんを見て、酒井は爆笑しました。
「バッカじゃないの、あんた!」
「うえ~ん、うえ~ん」
ゴンちゃんはしくしく泣いています。
「とっとと出たら?」と酒井。
「抜けないんだよ~!」
それを聞いて、酒井はさらに爆笑しました。
「笑うなよ~!この一大事に!」
「マジうける~!朝までそこにいれば?」
「なんだよ、そんな酷い言い方ないだろ!」
「は?私にトイレで一夜を過ごせとか言っておいて、自分のことはいいわけ?」
「いいんだよ!」
するとその時、二階からゴンちゃんママが降りてきました。
「うるさいわねぇ。なんなのよ~」
ゴンちゃんのみじめな姿を目にしたとたん、母は大爆笑しました。
「何やってんのよ、ゴンちゃん。抜けないの?」
「うん」
さらに笑いました。
「どいつもこいつも僕のこと笑い物にしやがって!」
ゴンちゃんは激怒しました。
ようやく酒井とゴンちゃんママは笑うのをやめ、ゴンちゃんの救出を始めました。
「うんとこしょ、どっこいしょ!」
二人で力を合わせて引っ張りましたが、ゴンちゃんは抜けません。
「早くここから出してよ~!」
半泣きでゴンちゃんが叫びます。
「わかった、わかった」
そう言って、母はどこからかロープを持ってきました。
「な、な、な…何するんだよぉ」
不安げな表情のゴンちゃん。
母はロープの先端をゴンちゃんの胴体に結び付け、反対側を持って酒井と共に引っ張りました。
「うんとこしょ、どっこいしょ!」
「痛てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ゴンちゃんは抜けませんでした。
とうとう二人は諦めて、
「こうなったら、救急車を呼ぶしかないわね」
と、電話をかけに行きました。
「最初からそうしろよ」
ゴンちゃんは一人トイレで呟きました。
それからおよそ三十分後、救急車が到着し、ようやくゴンちゃんは便器の中から救出されたのでした。
「ああ、よかった」
便器から抜け出すことができたゴンちゃんは、ホッと安堵の笑顔を浮かべました。
笑うと堀川そっくりだと酒井は思いました。と言っても、本人なのでそっくりでも不思議はありません。
酒井が眠り始めたのは、三時ごろのことでした。
***
「おーい、酒井ー!!」
ゴンちゃんの大声で、酒井は目を覚ましました。
時計を見ると、五時でした。
「なんだよ、まだ朝の五時じゃん。もう少し寝かせてよ~」
「バーカ。夕方の五時だよ。お前起きんの遅っせぇんだよ」
「悪かったね」
「ところでさ、実はお願いがあるんだ」
ゴンちゃんは背中の後ろから何やら一枚の用紙を取り出し、それを酒井に突き出しました。
「実は今日、算数のテストが返ってきたんだ。10点だった。あ、100点満点中の10点な。で、ママに見つかるとヤバいんだ。だからどっか見つからない場所に捨ててきてくんね?」
「は?なんで私が…」
「俺はこれから見たいテレビがあるんだよ。お前、どうせ暇なんだろ?」
「ふん。暇で悪かったね」
酒井はゴンちゃんの手からテストの用紙をひったくり、面倒くさそうに部屋を出て行きました。
「10点とかマジだっせ~」
そう呟きながら、酒井はテストを庭の花壇に埋めました。
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