第一章『それは、新しい日常』

第一話「転生者」

 俺の名前は「ひいらぎ優気ゆうき」17歳で生まれつきの身体障害を持っていた。

 右手右足が悪く、ほとんど歩けず物も持てないような身体だったため生まれてこの方ずっと車いすの生活だ。

 まあ、おかげで学校生活には苦労したものだ。


 そんな俺が今いるのは真っ白い部屋、ついでになんか爺さんも一緒に部屋にいる。

 まあ、なんとなく察しはついているが。


「ついでとはなんじゃ、ついでとは...」


「人の考えをよんでくるあたり、やっぱり神様とかいうやつですか?」


「いかにも」


「転生ですか?」


「そうじゃな」


「ファンタジーな世界にレッツゴー?」


「うむ」


「結構だ」


「...なぜじゃ?」


 なぜってこの爺さん本気で言っているのだろうか。

 俺だって興味がないわけじゃない。むしろありまくる。できることが少ない俺にとっては本を読むことは一番の趣味だった。もちろんその中には転生ものの話もよくあった。

 だがこの動けない身体でどうしろと?

 この、今座っている車いすもこいつが準備しただろうに、そう思うとなんだかイラついてきた。


「笑わせるなよ、この身体の俺に何をしてほしいって?」


「安心せい。そのままなわけなかろう。お主達転生者には一つだけ願い叶えられる権利があるのじゃ。魔法でもなんでも好きに選ぶがよい」


「一つじゃ足りないな。俺は例えチート能力を持っても、もう一度身体の動かない人生なんて真っ平ごめんだ。せめて二つに出来ないのか?」


「できんのぉ。例外はないのじゃ」


「なら、ダメだな。」


「そう拗ねるでない。本当にそうかの?こんなチャンスは二度と来ぬぞ?」




 ......

 たしかに。神様の態度に少々イラついていた。自分には無理だと自棄になりすぎていたかもしれない。

 もう一度よく考えてみよう。身体を動かせるようにするだけならそう頼めばいい。だがそれじゃただの一般人だ。ファンタジーな世界に転生者が一般人とか、生きていける気がしない。

 魔法。確かに魅力的だが本当に棒だち、いや座っているわけだが固定砲台じゃ生きていけないだろう。風や重力を使って身体を動かすといっても俺にそんな器用なことができる保証はない。

 考えろ。何か身体のハンデを帳消しにして力を得る方法を。身体を動かせ、なおかつ力をもつ方法を。


 ...身体の強化?だめだ。麻痺した身体を強化したところで動けないことに変わりはない。なら、新しい身体を創ってもらう?新しい強い身体————


「ほう、すでにそこまでたどりついたか」


 こいつまた勝手に人の頭の中を。


「その言い方、あんたはこの発想を知ってたんだな」


 最初から言えっての。


「前にも一度同じような事があったからのぉ。普通、魔法や武器特殊能力などに目がいってしまうものじゃ。新しい身体などと抜かすなどお主のような境遇にしかできない発想じゃな」


「......それはつまり、前に来たやつも俺と同じ————」


 いやこれは愚問だろう。わざわざ不快な話を掘り下げる必要もない。


「まあいいです。さっそくですがお願いします。願いは"あなたが創れる最高の身体"」


「うむ。よかろう」


 そう言うと爺さんは俺に向かって手をかざしてくる。

 一瞬で目の前が白く塗りつぶされ、気づくと先程と同じ光景を目の前に立ち尽くしていた。




「......もしかして、もう終わったのか?」


 あまりに早すぎないだろうか。

 眉を顰めながら問うと、爺さんが若干どや顔で返してきた。


「うむ」




 ......ちょっとまて。

 あわてて後ろを振り向けば、もうそこには先ほどまで座っていたであろう車椅子はなくなっていた。


「立って... いるのか...?」


「わし、神じゃから」


 今度は若干などではなく完璧などや顔を決めてきた。













「それで、結局俺がいく世界ってのはどんなところなんだ?」


 そう、これは結構重要な質問だ。俺が読んできた異世界ファンタジーものには大きく分けて2種類ある。一つはステータスやスキルなどといったものがあり、ゲームを連想させるような異世界。そして、もう一つはそういったものが一切ない異世界だ。


「それに関しては前者じゃのぉ。ステータスもあればスキルもある。もう一つ称号というものもあるのぉ」


「へー、いいな」


 スキルや称号集めとか俺のコレクター魂に火が付きそうだ。


「勇者とか魔王もいるのか?」


「そうじゃ、概ねお主が期待する異世界で間違いないとは思うぞ?」


 なるほど。それは今から楽しみでならないな。




「それじゃあ、そろそろ行くよ。あまり長居するもんじゃないだろうしな」


「うむ、ではこの扉をくぐるとよい」


 爺さんが腕をふるうと同時にその扉は出現した。


 開け放たれている扉の先は黒一色に塗りつぶされている。

 足を一歩踏み出すと徐々に視界が黒に埋まった。身体の感覚が徐々に薄れていく。


 俺の記憶はそこで途切れた。

 

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