第二話「出会い」
手足の感覚を認識し始め、まどろみの中、少しずつだが意識が覚醒してきているのがわかる。背中に硬い地面感覚を感じながら、俺はわずかに残る眠気に抗い、ゆっくりと目を開けた。
「知らない天井だ...」
人生で一度は言ってみたかった言葉だ。
さて・・・ああ、転生したのか。
爺さんとのやりとりはついさっきの出来事なはずなのに、随分と前のことのように感じる。俺はここでどのくらい寝ていたんだ?
転生したのに、目覚める前に襲われてエンドなんてシャレにならない。さすがに場所を選んで送ってくれているとは思うが...。
朦朧とする頭を軽く振りながら、上体を起こして辺りを見回す。
薄暗くてほとんど何も見えない。ここはどこかの倉庫だろうか。目を凝らして見るがなかなか見えない。
どうしたものか。
暗闇をぼーっと眺めながら、今後のことについて考える。
ちょうど暗闇に慣れてきた10分くらいたった頃だったろうか。突然、頭の中に声が響いた。
(スキル《暗視》を獲得しました)
ん?
スキル? へー、これがスキルか。初めてだがなんとなく使い方はわかった。
しいていうなら手足を動かすような感じだ。動かし方を考えるまでもなく感覚で使える。
(スキル《暗視》を発動しました)
おお、すごい。ちゃんと見えるようになった。やっぱりさっきのはドアか。あそこから出られそうだ。
見えるようになったのでもう一度辺りを見回して見ると、あるのは錆びついた武器や何に使うかよくわからないガラクタばかりだ。
どうやら本当にただの物置だったらしい。宝物庫か何かと期待していたので残念だ。
ドアを開けると長ったらしい廊下が続いていた。
「おー、すげー。まるでお城みたいだ。いや、床や壁の素材のせいで遺跡にみえなくもないな」
とりあえず散策してみるか。
#$%&====
「!?――なんだ今の音!?」
突然大きな爆発音が聞こえてきた。かすかに悲鳴みたいなものもまじっていた気がする。近くから聞こえてきたので、すぐそこの部屋だろう。
俺は急いで部屋の前まで走ってドアを開けた。
反射的にドアを開けてから気づいたが、迂闊に開けてしまったのはまずかったかもしれない。今更引き返せないのでどうしようもないが、初異世界ってことで俺も浮かれていたのかもしれない。次からはもっと気を付けて行動しよう。
そんなことを考えながら開いたドアの先に視線を送るとそこには―――
服が焼け落ち、ほとんど裸の少年と、
「え?」
その近くには、タオル一枚で体を必死に隠し、腕を突き出した状態で固まる女性の姿がそこにはあった。
「!ッ/// 」
お互いに向き合って、だ。
何してんだこいつら...この真昼間から...
いや、まあ、外をまだ見れてないから時間もわからないんだけどな。
空気が凍るとはまさにこういうことなのだろう。
誰もしゃべろうとしない。身じろぎひとつない。
沈黙が痛い。
「この変態ぃー!」
ようやく沈黙をやぶったのは涙目になりながら叫ぶ彼女だった。
気づくと彼女は赤黒く燃える火の玉をかかげ、こちらを向いていた。標的は完全に俺である。
くそっ!
おそらく先ほどの爆発の原因は彼女のこれだ。そして、きっとくらったのはあそこの少年。
つまりこのお約束の展開は、俺で2回目なのだろう。
まずい...このままだと全く同じ道をたどる。
冷や汗が止まらない。なぜこんな急展開になっているのか。ドアをあけてまだ10秒もたってないぞ。
「ちょ、ちょっと待てって!」
「うりゃーっ!」
「まっ、待て!彼は一般人――」
少年が最後に何か言うがもう遅い。
とっさに顔隠すが放たれた火球は俺の体に直撃し、あたりに爆風をまき散らす。足下の床がめくれバランスを保っていられなくなる。
全身が焼けるようにあつい。いや、ようにというか焼けてる。
それでも我慢できないほどじゃない。もしからしたらこの新しい身体、俺が思っている以上に強くできているのかもしれない。
しばらく耐えていると、
(スキル《火炎耐性》を獲得しました)
聞こえてきたと同時に、急いで発動させる。
すると、先ほどまで全身を駆け巡っていた暑さは消え、うっすらと目を開けていくと、火の中でも目を開けられることに気付いた。
火に包まれながら体を確認する。
やはり、もともとこの身体が丈夫だったのだろう。火炎耐性を得る前に受けた傷でさえ、軽い火傷ですんでいる。
そのまま数秒待つと、やがて火は消え静寂が訪れた。
あとに残ったのは、
こちらを見て感嘆の声をあげる少年と、
「お、おぉ...」
恥ずかしさも忘れ驚きの声をだす彼女、
「うそ!?」
爆風によって巻き上げられた煙で咳き込む俺。
「ケホッ、ケホ」
半裸の男女三人が、そこに立ち尽くしていた。
......
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
閑話休題
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あの後、とりあえず全員着替えた。詳細は省くがこの城にあったものを借りた。今は話し合いの場設けるため、3人で円を作って座っている。椅子はなかったので、各々胡坐や体育座りだ。
そうだ、簡単な容姿だけでも紹介しておこう。
俺の左斜め前に座っているのは少年。今は座っているからわかりづらいが、かなりの低身長だった。150ないくらいじゃないだろうか。俺で165はあるので結構な身長差がある。髪は薄い金髪で顔は整っている。優男って感じだ。
右斜め前に座っているのは女性。身長は160くらいで、赤い髪を腰まで下ろしている。年齢はたいして俺と変わらないように見える。こちらも顔が整っている。
世界はなんて不公平なんだろう。あとであの爺さんにあったら文句の一つでも言っておこう。
「で?半裸二人、この真昼間から何してたんだ変態ども?」
俺は開口一番にそう切り出した。
「ちっ、ちが///」
「ははっ、最終的に君も半裸だったけどねー」
「くっ、確かに」
そこを突かれるともう何も言えないな...
「そんなことより、あんた達いったい何者よ! 人族がこんなところまではるばる覗きなんて、冗談になってないわよ!」
「ん? 達ってことはお前らも初対面なのか?」
「そうだね、たぶんここにいる皆初めましてなんだと思うよ」
そうか、二人ともこの城の住人なのかと思っていたが、そういうわけでもないらしい。勝手に決めつけてしまっていたな。
「それじゃあ、覗きがわざとじゃないってことも説明したいし、自己紹介もかねて僕から先に話させてもらうよ。これはこの城についてからの話なんだけどね」
---
『貴様、何者だ!』
『なぜ人族がここにいる!』
二人の門番が剣をこちらに突きつけてくる。
『そりゃー、勇者だからね。魔王様に会いにくるのは当然でしょ。魔王はどこにいるのかな?』
『なっ、馬鹿な!勇者がこんなところにいるわけ!』
『そんなはずない!ここは魔界なんだぞ!』
彼らも混乱しているのだろう。普通に考えて、人族が一人魔界に忍び込むことなどできるはずがない。そんなことができるのは勇者である僕くらいだろうに。
『僕は魔王に話をしに来たんだ。敵意はないよ。いや本当に』
僕が言っといてなんなんだけど、すごく嘘っぽいな。本当のこととはいえ、自分で笑ってしまうほど説得力がない。
『そんなこと信じられるか』
そりゃそうなるか、まあ信じられても反応に困るのだけど...
すると、門番の一人が首にかけている笛を鳴らそうと手を伸ばすのが見えた。
『うっ』
『がぁっ』
『おっと、悪いね。あんまり騒ぎにはしたくないんだ。』
誰かを呼ばれる前に手刀で意識を刈り取る。
『はぁ、やっぱり自力で探すしかないかー』
この広い城で人一人を探すのは骨が折れそうだ。
城に入ってもうすでにしばらく経つ。
だがおかしい。あれから誰とも遭遇していない。何も進展がないのでそろそろ何か考えなければならないかもしれない。
その時だ。
『なんだこの音...水音?』
近くの部屋から水の流れる音が聞こえてくる。
部屋を開けると中にシャワー室があった。どうやら誰かが入っているらしい。
よかった。この城、ちゃんと住人がいるらしい。とりあえず外側からでいいので声をかけようと近づいた。
ガラッ
『あっ』
『へ?』
相手はこちらの存在に気づいてなかったのだろう。こちらを見てとてもまぬけな声をあげた。
気づけば見入っていた。
惜しげもなくさらされたすらっとした脚。くびれがしっかりとできた、ほっそりとしたお腹。大きすぎず小さすぎず、ちょうど手に収まりそうな張りのある双丘。少しきりっとした目で整った顔立ちをしている。
そして、腰まで流れる透明感のある赤い髪に、
水滴が伝って落ちた。
『きれいだ...』
『!///////』
あ、やばい声に出ていた。
あわてて口をおさえるが今更遅い。
彼女は一瞬にして近くにあったバスタオルで体を隠し、詠唱もなしにこちらに向かって火球を飛ばしてきた。
無詠唱!?しかも一瞬にしてこの威力を!?
避けることもできたが今回は僕が悪い。甘んじて受けよう。
魔法は見事直撃し容赦なく僕の体を焼いてくる。
うん、このくらいなら大丈夫だ。
しばらくすると周囲を覆っていた火は消え残るのは、少々焦げた匂いが残るだけとなった。
そこへ
ガチャ
『え?』
---
「って感じにね、そこで君が入って来たわけさ」
(さすがに裸を見たっていうのは省かせてもらったけどね)
「勇者だって!?」
「そう、僕は勇者、シオンっていうんだ。覗きも不可抗力だったんだよ、ごめんね」
「むーーーっ。...わかったわよ、今回のことは許すことにするわ。それよりもあんた勇者だったのね」
「まあね。それで、この城でシャワーを浴びてたってことは、君は魔族なんだよね。魔王さんの居場所ってわからないかな?」
すると彼女は少年の方をしばらく見つめ続けると、長い息を吐いた。
「はぁー、ほんとに魔王っていう存在に敵意がないのね。私が... 私が魔王よ」
「君が!? そうか、魔王ってのは男に限らないのか。勝手にごっつい男を想像していたよ」
「全く、ひどい想像ね。私は魔王、リリィー・アスカ・スカ―レッド!予想がはずれてよかったわね。こんなかわいい娘が魔王で!」
「うん、それは本当に」
少年は苦笑して返す。
これは、ごっつい男はいやだなぁ、という意味のほうが強いのだが、勘違いしてるのだろう、その言葉でまた魔王は顔を赤くしている。
勇者?それに魔王?悪い冗談はよしてほしい。こんな最序盤に出てくるか?ふつう。
だがこいつらが嘘を言っているようにも思えなかった。
幸い、悪いようなやつらには見えないが、目の前でイチャつかないでもらいたいな。たしかに今時、勇者、魔王のカップリングはテンプレだけど...
「そういえば、君は本当に何者なんだい? ここは魔界だ普通の人間がこんなところに来れるとは思えない」
「そうね、勇者が来たっていうのは納得できたけど、それじゃあ、あんたはいったい何者?」
きた...ついにこの質問が俺へと向けられたか。
何者、か。
転生者、一言でいうならこれだろう。だが、話して通じるものなのか。通じたとしてどんな扱いを受けるのかは全くの未知数だ。だがここで中途半端な答えをだしては、信用は得られないだろう。というかこの場をしのげる嘘をでっちあげるのは不可能だ。今の状況が特殊すぎる。もうちょっと平和な街はずれにでも、送ってくれてよかったんだけどな、爺さんよ。
次の言葉で、今後の異世界での俺の立場が、決まっていくだろう。いやでも手汗が出てくる。
俺は一つ大きな深呼吸をした。
「俺の名は、ユウキ...転生者だ」
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