11番目の神 ~俺と勇者と魔王と神様~
琴乃葉 ことは
ゼロ章
プロローグ「始まる物語」
※※※※※※※※※※※
帝国————————
目の前にいる国王が声を掛けてくる。
「さあ、行け!勇者よ!!勇者の称号に誓いお主の天命をまっとうせよ!!!」
「勇者」、それは人族の中で最も強い者に自動的に与えられる称号である。
王城の前には大きな大きな広場が設置されている。それでも尚、この日は溢れんばかりの人が押し寄せていた。
群衆には大声を上げて叫んだりする者や、指笛を盛大に鳴らしている者もいる。中にはシャンパン持ち出して振り回している物もいるようだ。
数年に一度ここ帝国では勇者を送り出す儀式が行われている。勇者に激励を送りつつ、国の士気を保つことが目的だ。
勇者となる人間は毎回どこからか国王自らが連れて来るという。自分の目で見て勇者になる器を見極めているなんて噂もあるらしい。
だが、勇者の出自を知る者はだれもいない。
出自不明の勇者?
そんなの裏があるに決まってるじゃないか。しかし誰も疑わおうとしない。皆、盲目的に勇者という不確かな希望を信じているんだ。
だれも止める気がないなら僕が止めてやる!!!
勇者の儀式は簡単だ。国王の言葉に返事してやればいい。
剣を抜き、僕は天にかかげてこう言った。
「仰せのままに」
彼は「勇者」に選ばれた人間だ
彼は「勇者」ではあり勇者であった。
故に彼は「勇者」を憎む。
※※※※※※※※※※※
魔界————————
目の前にいる一匹の使い魔が声を掛けてくる。
「主様!魔王就任おめでとうございます!」
あぁ...いやだ。やってられない。なぜこんな歳で魔王なんかになっているんだ私は。
同年代の子たちは今頃なにをしているんだろ?
「魔王」、それは魔族の中で最も強い者に自動的に与えられる称号である。
先代の魔王が死ぬと、次代の魔王の捜索が始まる。そうして探し出されたのが彼女だ。
魔王というのは人間の勇者に命を狙われる存在だ。さらに言えば同じ魔族に襲われることすらある。
魔族は一枚岩ではない。何十とある種族が総称して、そう呼ばれいるに過ぎない。当然、他種族から魔王がでれば争いの火種になる。
だから誰も彼もが魔王になったことを隠してしまうのだ。本来他人の称号を見ることは困難なので、何年もかけて捜索が行われる。
今回もその筈だった。
「あ~ 調子にのって力を見せびらかしていた自分を呪ってやりたい!!」
魔王なんてろくな仕事じゃない。
毎日毎日、書類とにらめっこ。私がやる必要なんてないじゃない。
彼女は称号を隠すといったことはしなかった。いや、隠せなかったと言った方が正しい。
彼女は強過ぎたのだ。生まれながらにして持った才能は他者の追随を良しとせず、周りとの格差を明らかにした。
幼かった彼女は周りに持ち上げられ自分の力を使い続けた。自分が良い事をしていると、多くの人を傷付けながらもそれが正しい事だと信じて疑わなかった。
彼女に罪の意識が芽生えたのは丁度五年前。
環境が悪かったと、言ってしまえば簡単かも知れない。しかし、当の本人からしたら、だからなんだという話なのだ。
無知は罪であるとはよく言ったものだ。
そんな彼女には、既に何も残っていなかった。
「はぁ、何かおもしろいことおきてくれないかしら」
※※※※※※※※※※※
天界————————
「ほら、”11番”あなたの仕事が決まったわ」
「そうそう、よかったわね~ あなたのおかげで今日もこの世界は平和よ~」
「やっとこいつともおさらばか」
「長かったですねー。気が気じゃありませんでしたよ」
そう笑いながら、蔑みながら、憐れみながら、そして心底楽しそうにしながら、10人の神が敵意を持った目でわたしのことを見てくる。
私は別に何か悪い事をした訳ではない。裁かれるような大罪を犯した記憶なければ、直接反感を買うようなことをした覚えもない。
そんな私が、なぜ、神なんかに取り囲まれ、責められているのかというと———— それを説明するには少々時を遡る必要がある。
なぜこんな状況になっているのか...
あれは二週間程前だったろうか。あの時も、たしか今のように他の神たちにこうして囲まれていた。
---
私は気づくと草原のど真ん中に座っていた。
辺りを見渡すと、そこには色とりどり花が咲き乱れ、何処までも広がっていた。そして、小さめの可愛らしい家々が、いくつか点々と配置されている。家の構造は全く一緒で屋根だけが色違いになっているようだ。
頭がぼーっとする。
何か考えなければならないのに頭が働かない。この異常事態に対応する為にも、何か行動を起こさなければならないのに、一向に立ち上がる気力すら湧いてこない。
どうしてしまったんだろう。
その場で何もせずにいること数十分。気づくと私の周りには何人かの人が集まって来ていた。着ている服装は様々だが、綺麗に白で統一されている。
ふと気になって自分の体を見下ろした。
やはり。
自分もまた白のワンピースを着ている。私は彼らの雰囲気とどことなく似ていた。
『おい、どういうことだ! なんで急に女の子が現れた!』
『いったい何者なの? ここは天界よ?』
『よく見て見ぃ。この子もワシらと同じ神じゃ』
老人の言葉によって驚きが広がる。
うそだろ? そんなまさか?という呟きが聞こえてきた。
複数の視線が少女へと集まる。
『あら〜、ほんとにそうみたいね〜』
『ありえません。神は10人だと皆さんも知っているでしょう?』
メガネをかけた青年の問いかけに皆が頷く。
『そうだ、”10番”が現れてから既に千年近く立っている。神の顕現はあの時に終わった筈だ』
『それじゃあ、なんで11人もいるのかしら?』
......
答えられる者がいる筈もなく沈黙が続く。それでも、苦しくまぎれに一つの可能性を呟くことはできた。
『決まってる。この場に神じゃない者が1人いる。それだけだ』
神たちが顔歪ませ、再び沈黙が辺りを包む。お互いの顔を見ては、どうするのかという探り合いだ。
そんな中、一人の神が不思議そうに呟やいた。みんな何をそんなに悩んでいるんだと言いたげに。
『そんなの簡単じゃない。————————』
---
あの頃はまだ私への敵意もほとんどなかった。どちらかというと戸惑いの方が大きかった気がする。
ここは"天界"と呼ばれる、10人の神が住む所らしい。
だがある時、私という11番目のイレギュラーは現れてしまった。
他の神たちは、自分は本物の神だと主張し、新たに現れた私を排斥するようになった。
まるで、これで今まで通りだと言わんばかりに。
確かに10番目と11番目の顕現には千年という長い溝があった。1番目から10番目が百年という年月で顕現された事を顧みれば、異質だと言わざるを得ないだろう。
しかし、それだけ。それだけでしかないのだ。他の根拠など全くなく、つまり結局————
みんな、自分が神でない可能性を恐れたんだと思う。生まれてから、何千年と神として過ごしてきた彼らには、それ以外が受け入れられなかったんだ。
「ほら”11番”、これがあなたの仕事よ。下界の邪龍をその身をもって封印し続けなさい。いい?ずっとよ。」
敵意を持った視線を浴びせ続けられるのもそろそろ限界が来ていた。きっとこのままのせられて下界へ逃げてしまった方が楽なんだろう。でも、ただちょっと...ほんの少しだけ、寂しいなとそう思ってしまった。
私は腕を振るい天界と下界を繋ぐゲートを出現させる。後ろを振り向くとさっさと行けというふうに、しっしっと手を振られた。
振り向いたことを若干後悔しながらも、私はゲートをくぐる為に足を一歩踏み出す。
こうして私の下界行きは決まった。
私は何のために生まてきたんだろ...
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