第2話Separately 夫々

2.



 子供たちだってこれから親を親として認識していく年齢だというのに。



 1年や2年で帰って来れたとしても夫の顔を覚えているかどうか

怪しいものだ。


 私は自分の父親が所長とする税理士事務所で働いていて、転勤先に

帯同すること難しい。


 仕事がすごく好きで仕事第一人間の夫だって月に一度でさえ、こちらに

帰って来るかどうか怪しいものだ。


 もし任期が5年……ううん10年選手もいると聞くし7年8年となったら

考えるだけでも恐ろしい。


 単身赴任が原因で実際離婚した人も少なくないと聞く。




 そして私が思いつく限りの心配事は夫も理解できるはずなのに

それでも幼子2人と仕事を持っている妻を残して、仕事を優先させたいと

そう私に告げているのだ。



 仕事と私、どちらが大事?



などと恋人同士のような甘ったるいことを問い詰めたりしたいわけじゃ

ないけれど、だけどこんな状況で問い詰めない妻が一体何人いるだろうか。




 家族と仕事、どちらが大事なの? と、聞くまでもないようだ。

 残念なことに。



 夫はすでに答えを出しているのだから。

 思いっきり仕事がしたいのだ。



 単身で勤めたら、それこそ独身と同じだから一心不乱に

だぁ~い好きな仕事がお腹いっぱいできてあなたは幸せなのよね。



 大好きな夫の為に……

 愛する夫の為に……



 ここは応援して送り出してあげないと、いけないのよねぇ~って……。


 ぇっ? そうなの?



 私は一度もOKしてないというのに……

『反対だー』と怒ったり、キツイ口調で『止めて欲しい』とも

言わなかったから、


 夫はもう行く気でいるらしい。

 浮かれている。



 その様子を横目に、息子を抱いたまま私はそっと『……』と呟き、

やるせないため息を吐いた。



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