第12話 アルの過去②
俺の名前は、モリス・ガウババ。
なんで、俺がこんな自己紹介してるかって?頭がおかしくなりそうだからな。冷静さは重要さ。俺の頭は『馬鹿』じゃないぜ?
「一体全体どうしちまったってんだ、盗賊団が壊滅しちゃまってりゃあ。どうしちまったってんだ、本当によ」
正直気にくわない奴らばっかだった。
獣人族だってだけで人族共は仲間内から外しやがるし、最悪だった。
二ヶ月前にグリリが下手こいて死んじまうし、一か月前にマーギスが乗っ取り計画立てて、昨日成功させちまうし…
この三か月は色々あった、変なガキもいたしな。
だから昨日、宴の席じゃ獣人族が初めてあの中じゃトップにたった。俺もいつの間にか受け入れられて、ついつい酒が進んじまったんだったよなあ。
酔いを覚ますために、俺専用に作ってた洞窟の一番奥の工房で寝てて、やっとさっき起きたらこれだ。
「みんな死んでる。どうしたこりゃ。」
辺りを見渡せば死体が折り重なるように倒れ込んでいた。腐敗臭はしないが、やけにネットリとした血の独特な匂いで充満してるだけだ。
ふと、足元に違和感があり、踏んでいた物を見やる。
「ってこりゃあ、冒険者に支給されてるって腕章じゃねーか……」
そいつらに壊滅させられたのか?
そういや、マーギスはどうした!
そんな不安と焦燥に駆られ、死体の頭部に注目して探す。獣人は自分を除けばマーギスしかいないからだ。
その姿は、すぐに見つかった。
「……くっ、ひでぇな。なんだかんだ一番最初に戦ったのか。一番傷が多いぜ、こりゃ」
剣で切りつけられたような傷と、一番ひどい傷は腹部の刺し傷だった。やはり冒険者たちの仕業だろう。
いい奴では無かったが、悪い奴でも無かった。
元々盗賊団に入るように誘ってきたのもマーギスだった。俺は心底嫌だったが、生活に困っていたから選択肢はそれしか無かった。
「マーギス……いなくなっちまうと悲しくなるもんだな」
(っといけねぇ、まだ近くに冒険者たちがいるかもしれない! 隠れながら入り口まで移動するか?)
そういやあのガキの死体が無いな、冒険者に連れられて行ったか? 不憫なやつだったが、時折みせる殺人鬼みたいな、あの仄暗い目の奥を見た時から俺はあいつが苦手だったんだ。
そんな事を思いつつ、とりあえずここから出で行く為の準備をする。
食料庫から持てるだけの食料を詰め込み、工房から道具と作成した魔道具を取り出す。
その他にも、長い旅でもとりあえず大丈夫なように荷造りをする。
今までの中で一番出来が良かった魔道具。マーギスが使っていたレイピアを護身用に持ち出す。
今日の戦いでは使っていなかったようだ。昨日は宴の席だったこともあり、マーギスは自室、といっても天幕のようなもの、にレイピアを保管していたようだ。
武器の魔道具は冒険者なら欲しがるからな、これが無事で良かった。
「にしても、とりあえず行動だな。町への行き方なんて分かんねーし、冒険者たちの足跡を追うか。気付かれない距離を保てばいけるかもしれねえ」
基本的に盗賊団では裏方の仕事が多かったし、洞窟に移動して以来待機組だった為、新しくきたこの洞窟からの地理は詳しく無かった。
洞窟は、森の中にぽつんと存在する丘稜の中腹に存在するので、目立ちやすいが分かりにくいという絶好のアジトだった、見つかれば元も子もないが。
つまりモリスにとって、森に出て洞窟に戻れはするものの、森から脱出するには絶望的な状況だった。
「追跡用の魔道具つかわなきゃしゃーねーな。俺は魔道具作るのは得意だが、魔素を調整すんのは苦手なんだよなぁ」
獣人である為魔素は扱えるが、モリスは魔導を苦手としていたので魔道具職人になったくらいだ。
一見オルゴールに見える小箱を取り出す。横についている回しをクルクル回しながら魔素を注入する。
すると、青白い光が箱から照射され、それを地面に向けるとかすかに見える足跡が浮かび上がる。
「時間経ってたんだな、急がねえと消えちまうぜ。これなら近くにはいないだろうさ」
そう言うと、足早に魔道具片手に冒険者たちの足跡を追うのであった。
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