のみすぎと食い逃げ犯

ここは勇者候補の宿、もとい冒険者の宿、国民宿舎 くたびれ荘。

私たちの身元引受場所、兼生活の場だ。

先日の微妙なクエストで増えたツケを返すため、私こと酒野美杉(さけのみすぎ)は

宿のマスターである輝さんから経営している酒場、BAR・不毛地帯でのバイトを紹介されて数日前から働いている。

ちなみに頂いたゴリラは、街の動物園に引き取って頂いた。理由は察してほしい。

引き取り手が見つかって本当によかった。

あぁそうだ。

話は戻ってそのBAR・不毛地帯なのだけど、最近不景気なのでランチ営業を始めたそうだ。

「のみすぎー、あ、いや今はハゲマントか。お前がまさか看板娘になるとはなぁ。」

「宿の娘的ポジションの女子がいないからお前でもまぁいいか、ツケ減らしてやるからランチ営業手伝えって言ったの輝さんじゃん。あ、8卓日替わり2つだって。」

「あいよ。まぁ常連達からは反応いいからこのまま頼むぜ。下がったらお前の好きなアレを出してやるからよぉ。」

アレが出るなら話は別だ。

これは女の子である以上仕方のないことだ。私は機嫌よくホールに戻った。

ガラガラっという音とともにまた一人客が入ってきた。

だが、直方体(?)に手足が付いた四角い何かだった。ぬりかべ…なのか?

内心驚きはしたものの、輝さんのお客さんには魔界の方も多かったので

接客用の笑顔を作り、とりあえず動揺を隠した。

「1名様でよろしいですか?」

「よい。」

思ったよりイケメンボイスの返事がかえってきた。

「1名様、9卓入ります。」

直方体の客を席に通し、メニューが決まったらお呼びくださいと告げるやいなや、日替わりとA定食とB定食を頼んできた。しかも大盛りで。

どんだけ食うんだよ。私はオーダーを告げに裏へと引っ込んだ。

「どんだけ食うんだよこの客。わかった日替わりとA定とB定な。」

輝さんも同じことを思ったようだ。

料理が出来上がり、9卓に次々と料理を運ぶ。

「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」

「よい。」

伝票を置いて下がろうとした次の瞬間、ものすごい勢いでテーブルの上の定食が直方体の中に吸い込まれていく。

おいおいどういう構造しているんだよ。

口どこにあるんだよ。

びっくりしながらその様子を眺めていると、皿が空になった途端、パッと直方体が空間から消えた。

急なこと過ぎて、目の前で何が起こったのか一瞬分からなかった。

我に返った私はキッチンにいる輝さんに向かって叫んだ。

「食い逃げだ!!あの直方体、食い逃げした!!」

「なに、直方体が…くそ!あいつは連続食い逃げ犯 ハヤグイ・ガシュミダだ!やられた!!」

輝さんはガックリと膝をついた。

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