のみすぎと主人公補正

「何をしているのかなぁ?」

手酌でフィーバーしていた私の後ろに、こん棒を持った緑のボスおっさんが立っていた。えっと、それは…と言葉を濁しながら、私は義務教育時代に習った魔法の知識を必死に思い出し、振り向きざまにファイアの魔法を放った。

が、ライターに毛の生えた程度の火力しか出なかった。

万事休すだ…!

「随分慎ましやかなファイアだな。」

ボスがニヤニヤしながらこん棒を構え振り下ろす!

えっと、大ピンチの時って、人間スローで物が見えるようになるんだね…。

中学の時、学校の勉強が社会に出て何の役に立つんですかー、とか言って楯突いて先生ごめんなさい!もっと一生懸命勉強しておけばよかった…。

もっと親孝行とかしとけばよかった!

もっとうまい酒飲んでおけばよかった!

あともっと合コンとか行っておけばよかった!

様々な後悔が胸を埋めつくす中、


カキン!

乾いた音が頭上で鳴った。


あれ、私、死んでない。


「ハゲマン殿、助けにきましたぞ!」

あ、もしかしてこれが主人公補正ってやつか。

健さんが私の前に立ち、ステッキでこん棒を防いでくれている。

「お前さんの相手はこのわしじゃ。ハゲマン殿、ここはわしに任せて逃げて

向こうで穴を掘って待っていてくだされ!」

といった瞬間、健さんが跳ね飛ばされた。

ギャグ漫画みたいに。


私は健さんに心の中でお礼を言い、その場からさっさと逃げた。

戻った方がいいのかなとちょっとは葛藤したけど、無理なことをしたら明日に障るので今回は止めておくことにした。ごめんね健さん、立派な穴を掘るから…!

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