のみすぎとヤキソバの謎

「ハゲマン、いい加減機嫌直せって。」

トイレから出た私に頭巾のみの裸族が話しかけてくる。

これだからデリカシーの無い男は。


「うっさいわね、これから依頼者のところに話を聞きに行くんでしょ。」

「貴様あんなに閉じこもって無様に泣いてたでケロか?」

「たかだか30分でしょ。化粧を直してただけだから!」

「素直じゃないのぅ。」

わいのわいのしながらのみすぎ達は職安に向かうのだった。



「すみませーん、ヤキソバさんという方は…。」

私たちは窓口で昼ご飯を食べようとしている職員に話しかけた。

窓口からはカップ焼きそばのおいしそうな匂いが漂ってきて、

私の腹がぐぅと鳴った。

「色気より食い気ですかの。ハゲマント殿は元気ですのぅ。」

健さん、そこはスルーして欲しかった。

カップ焼きそばの匂いはカレーばりに罠だ。

一口食べるともういいかという気分になるのに、あの湯切りしてソースを混ぜた時の匂いは唐揚げマヨネーズ丼とラーメンを食べた後であっても人の食欲を刺激する。魔性の匂いとはまさにこういうものを指すのであろう。

「おいペヨング、客だぞ。」

窓口の男性は、ブースの向こうの男性に声をかけた。

こいつがヤキソバじゃなかったのか。


ペヨングと呼ばれた男は昼休みを邪魔されたからか、あからさまに嫌そうな顔をしながら近づいてきた。


「あなた方が輝さんとこの冒険者ですか?」

めんどくさそうな態度を全く隠さずに話してきた。感じ悪っ。

そして勇者候補なんだが、とも思ったが

これ以上機嫌悪くするとアレだしもう冒険者でいいやこの際。

「冒険者ではなく、勇者候補ですぞ。」

健さん…空気、読もうよ。

相手は案の定ムッとしている。あ、やっぱし。

「まぁいいです。正直貴重な昼休憩に来られるのは嫌なのですが

来てしまった以上そのまま帰すのも気が引けますので奥にどうぞ。」

ある意味正直な奴だな。感じ悪いのについては変わらないけど。

彼の後ろについてブースに移動する時、こいつなんであだ名ヤキソバなんだろう…

って考えていたら、何のことはなかった。頭にソース焼きそばをひっくり返したような髪型をしていたからだ。

うん、あだ名って、そんなもんよね。



輝さんから聞いているとは思うんですけど、と前置きをして

ヤキソバ、もといペヨングは話し始めた。

「僕の故郷のヘンピナ村で、数か月前から原住民らしき武装ゲリラが

地元の観光名所になっている洞穴に住みつきました。直接村人を襲ったりとかの

深刻な被害はまだないのですが、奴らは村人の管理する畑から農作物や家畜、

燃料を盗んでいくそうです。また、留守を狙って家の中にある現金や貴金属、下着を盗んだりもしているようです。それで腕の立つ知り合いがいたら誰か紹介してほしいと寄合から言われ依頼したんです。」

「最後のは、ただの便乗組の犯行なんじゃないかとも思うが。」

モザイクが言った。私もそう思う。

「下着か、それはけしからんでケロ。村の純粋な幼女が困っているでケロ!」

お前はブレないなー。

「ほうほう、それは大変じゃの。金額によっては助太刀いたしますぞ。」

健さんしっかりしてるな。

「そうですね、聞くところあまり慣れていないパーティとのことでしたので、

あまり多くは出せませんが、危険手当を付けて一人当たり3万ピカリ程度でいかがでしょうか。村でもきっとそのくらいは用意できるでしょうから。」

数日頑張っただけで月収の1/5か。まぁまぁかな。

皆も同じことを思ったのか、金額について反対するメンバーはいなかった。

「ところでヘンピナ村って、そういえばどこにあるんですか?」

あまりなじみのない村だったので、私は質問した。

「そうですねー。交通機関があまりないので街からですと2日程度ってところですかね。最寄りの町まで行くバスが夕方に1本だけあるので、それに乗って行くといいと思います。寄合には連絡しておくので、着いたら僕の名前を出してください。」

「そうですか、ありがとうございます。」


私たちは早速役所を後にして、ヘンピナ村に向けて旅立つのだった。

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