のみすぎとチートスキル

「で、受諾しちゃったけどさー、正直このパーティでなんとかなると思う?」

マスターが片付けに奥に引っ込んだのを見計らって私は皆に尋ねた。

「仕方ないから俺様の類稀なる魔力で華麗に解決してやるでケロ。」

「ツケがあるし仕方ないのう。」

「まぁアレだ。クエストに出発する前に、何ができるかだけは共有しておいたほうが良いな。俺も3人守りながら戦うのはちょっと骨だ。」

この忍者、恰好以外はすごくまともなのがなんかイラっとする。

出会った時のウザさは一体どこに行ったのだ。ジト目で変態を見ていると、

「ハゲマン、俺は守るものができたから前より強くなったのだ。」

「何。」

「…トモダチ。」

テーブルにのの字を書きながら全裸マスクがもモジモジし始めた。

友達とは。ポカンとした顔で見つめていると

「忍びたるもの友達など要らないのだが、

いきなり3人もできてしまっては、な(チラッチラッ)」

うん、変わってなくてちょっと安心した。

だけどこの悲しさはなんだろう。


食堂に沈黙が流れた。


「ほらほら、話が脱線してますぞ。皆さん何ができるかを出し合うのじゃろ?」

見かねた健さんが助け舟を出してくれた。


忍者が口火を切った。

「じゃあまず俺からだな。俺は皆も知っての通り忍びなので

鍵開けや罠感知などのいわゆる盗賊系スキルに格闘・暗殺だな。

あと、速さに関係のないものは極力覚えないようにしているから期待するな。」

ですよね…。

「次は俺様だな。俺様は皆も知っての通り高貴なる魔族の生まれだから魔法が得意だケロ。特に時間操作の魔法ができるケロよ!」

ヒキニートがドヤ顔で言う。

「ほう、時間操作とな。なんという高位魔術!魔族の高い魔力だからこそ成しえるのですな。」

「健さんそこ褒めたら増長するからあまり褒めないほうがいいよ。」

「人間の醜い嫉妬かケロ。これだから魔力弱者はレベルが低いのだケロ。」

カエルが私の方を見ながらニヤニヤしている。ほら、言わんこっちゃない。

「健さんはどんなスキルを持っているの?」

「あぁ!そこ無視するなケロよ!」

「わしか?わしはそうだのう、召喚としておこうか。

発動には条件がいるが、とある生物を召喚することができるぞい。」

召喚!ハイ来たよチートスキル持ち!!これは神様も私に微笑んで来てる!!!

義務教育で魔法を教えているだけあって、ヒールの魔法だったり火や水を出したりといった基本的な技術は皆ができる。学校で勉強をサボっていなければの話だが。

その中でもたまに召喚だったりテレポートだったりと超高度な魔法ができる人がいる。そういう人は皆、大学を卒業し魔法を修めたり、実家が超金持ちだったりして教わるツテがあったり、幾多の冒険を成しえた高名な冒険者だったりする。

健さんって、実はかなりの実力者?

「健さん、人間のくせにやるケロな。」

「健さん、昔高名な冒険者とかだったのか?」

「健さんすごーい、私なんて大学出ても大した技術身に付かなかったのに。」

「ハゲマン、お前の番だぞ。」

「いや、私は別になんも…。」

使えるのは基本魔法と仕事で使っていた小包を送る程度の転送の魔法くらいしかない。あ、あとカエルに飲み込まれた変な袋の精がいたか。正直あれは使い物になるのかわかんないけど。自分のスキルのショボさに恥ずかしくなって口をつぐむ。

「貴様だけ言わないのは卑怯だケロよ。ほらさっさと白状するでケロ!」


「…液体を酒に変える」


私は早口かつ小声で言った。

「ん?聞こえなかったぞもう一回たのむ。」

恥ずかしすぎてもうこれ以上言いたくない。

みんなの目が私に集中する。

「ハゲマント殿、自分のスキルを卑下することないですぞ。みんな違ってみんな良い。仲間がいるから補完しあえるってものですぞ。」

健さん、優しい。だがその名で(以下略

「クソ女早く言うでケロよ。皆から貴重な時間を奪っていることすらわからない低能はこれだから。」

あのカエル、人が恥ずかしがっていることをいいことに煽り始めた。

「ほらほらー、BBA黙っていたらわからないでケロよ?幼稚園で習わなかったでケロか?」

クソが!あー、もうどうにでもなれ!



「液体を!酒に!変える!分かっただろお前ら!!」


一瞬の沈黙のあと

「うん、使えないな。飲み放題しかできないじゃん。」

「ゴミだケロね。」

「(呑兵衛には)チートスキルでも(冒険では)外れじゃな。」

こいつらもう言いたい放題だ。


そんなことくらい、私だってわかってたよ!

私は辛くなって食堂からダッシュし、トイレに30分ほど引きこもったのだった。

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