のみすぎと飲み会のツケ

はぁ、なんとか間に合った。


ひとしきり吐いたところで、ギシギシと音を立てながら階段を降りると

廊下の向こうから美味しそうな味噌汁の匂いがしてきた。

あー癒される。

食堂に向かうと、4人分のお膳が用意されていた。


朝はやっぱ味噌汁に限るなぁ。

二日酔い酷いからほんの少しだけアルコール足すか。

ポケットから透明な液体の入った小瓶を取り出して入れる。

これが私流ヒーリングアイテム。

「味噌汁に癒しのエキスを入れたしこれで復活だ!」

「ハゲマンそれただの迎え酒ってやつだろ。」

向かいの席から声がした。

そのハゲマントという不本意なコードネームで私の名を呼ぶな。

そして略すな。

「おはよう。いいじゃないのよ、頭痛が痛いのよ!」

顔を上げると、蠢く股間のモザイクとご対面をしてしまった。

既にマイナスのテンションがもうダダ下がりだ。

このモザイク…もとい変態はパーティメンバーの全裸忍者、ム・シュウセイ。

コードネームは「神速のモザイク」。

素早さが下がるからという理由で頑なに服を着ない男だ。

なのに頭巾だけは「忍びは正体を明かさないものだ」と頑なに外そうとはしない。

解せぬ。

「頭痛が痛い、とは貴様の知性のなさには朝から笑わされるでケロ。

オヤジ、分かってないようだが俺様は朝はパン派だケロ!」

横槍を入れてきたのは魔界の俺様カエル、ヒキニート。

ニートとは魔界の言葉で「無垢な魂を持つ者」だそうだが、嘘臭さ全開だ。

趣味はネット配信、ロリコンと中二病という重篤な不治の病に侵されている模様。

こいつにつける薬は無い。

「お前はいつ椅子に座れるほど大きくなったんだ。」

一晩で何があった。もとい何を食った。

「成長期だケロ。気にするなケロ。」

一体何度目のだよ。

「これこれ、ヒキニート殿、輝さんが困っているじゃろう。」

私の斜向かいの席からフォローを入れたのは健さんだった。

健さんは私たちが職安(通称:きぼうの太陽)で知り合った上品なお爺さんで

マスターの輝さんが経営するバー、不毛地帯の常連客だそうだ。

昨日一緒に飲んでてその流れでそのままパーティに参加してくれることになったので

詳しくはまだ知らない。

「クラーケンの旦那、ありがとよ。おめーは文句言わないで黙って食え。」

輝さんが勢いよくヒキニートにげんこつを振り下ろす。

「このハゲ、あとで覚えておくでケロよ!」

カエルのことはどうでもいいとして健さんの話に戻ろう。

健さんの本名が倉田健一なので輝さんはクラーケンと呼んでいるだけだそうだ。

気になる。

「ところで、お前ら全員揃ったようだな。

昨日の飲み会、まだ清算終わってないからみんな後で金払ってくれ。」

「えっ、健さんのおごりじゃなかったの?」

「ワシは…なんとかするとは言いましたがの、奢るとは一言も言ってないですぞ。」

この爺ぃ箸で刺したろうか…。

3人の目が鋭くなって健さんの方を見つめる。

輝さんはおおきな溜息をひとつついた後、

「お前らに金がないのは今のでよくわかった。ツケにしといてやる。

でだ。そこでお前らに冒険者の初心者クエストも兼ねて

ちょっとしたおつかいを頼もうと思ってるんだがどうだ?」

健さんに向けられた3人分の殺気がふっと和らぐ。

爺さん、命拾いしたな。


「輝さん、質問!」

「なんだ、美杉」

「このクエストやったら飲み代タダでいい?」

「女、よく言ったでケロ!」

「出来次第だな」

「食後の運動に丁度いいくらいだろう」

「危険度もわからないし聞くだけ聞いてから判断してもいいじゃろう」




「よし、みんなオッケーだな。それじゃ依頼内容を話すぞ」

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