第1話

午前7時半、目覚ましに叩き起こされた西条拓海は、重い体を引きずりながら大学に行く支度をしていた。


ここはお世辞にも都会とは言えない。普通の生活には困らないが、一歩外に出ると田んぼがあり四方を低い山々がぐるりと囲っている。


拓海の通っている大学はそんな場所から、1時間に数本のバスに更に30分揺られた所にある。


朝はパン派な拓海はベーコンエッグとトーストをニュースを見ながら食べていた。


「続いてのニュースです。先日行方不明となっていた、佐藤孝之さんが今日未明遺体で発見されました」


最近こういった類いのニュースが多い気がするが、実際他人事である。


「そろそろバスの時間か」


拓海はトーストを口に放り込み、コーヒーで流し込むと急いで家を出た。


8時13分、いつものようにギリギリでバス停に着く。


15分のバスが来るまで待っていると、毎朝恒例の挨拶が聞こえてきた。


「おっはよー拓海!今日も元気?」


この朝から無駄にテンションの高い奴は鳴瀬京一。お調子者で、拓海の家のすぐ近くに住んでて同じ大学に通っている。


「お前は本当に朝からテンション高いよな」


「そんなことないよ。拓海が低いだけだよ」


朝の恒例行事を一通り終わらせた拓海達は15分を少し過ぎてやって来たバスに乗った。


ボロボロのバスで古臭い雰囲気の一番後ろの席が拓海のお気に入りであった。


イヤフォンを耳にあて、バスに揺られながら静かなクラシックを聞いているとそれを遮るかのように携帯が震えた。


今日のお昼どここに食べに行かない?


メッセージの名前通知を見ると相川友梨と出ている。


相川は拓海の彼女で、愛想が良く容姿端麗おまけに成績もトップクラス、誰にでも好かれるタイプで呑気者の拓海とはまさに正反対といったところだ。


返信をしようと指を動かした時、奴がニヤニヤしながらこっちを見ていた。


「誰~まさか愛しの友梨ちゃんかな?」


京一の言葉が聞こえてきたが、面倒くさいので聞こえないふりをして、そのまま友梨にいいよと返事をした。


京一は、わざと無視されたことに怒って肩を叩いてきたが拓海は気にせずにクラシック聴いていた。


そうこうしているうちに学校前のバス停に着いた。


バスを降りると校門には友梨が携帯を見つめて待っていた。


「遅いよ!」


頬を膨らましながらそう言った友梨に対して、京一がまた余計なことを言った。


「しょうがないじゃん。バスこの時間しかないんだし」


「京一は黙ってて」


一括されて落ち込む京一の肩に手を起きながら庇うように拓海が話を反らした。


「今日の昼飯楽しみだな。どこ行こうか」


その言葉にころっと表情を変えた友梨は、早速予定を立て始めた。


京一は助け船を出した拓海に手を合わせた。


「講義始まるからそろそろ行こうか」


そう言って拓海達は講義のある教室に向かった。

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