第9話教室という名の取調室

 教室に入りクラス全員に絶叫されるというのは俺には容易に想像ができた。ただ、うちの困った天然妹りなはこんなことになるとは想像できなかったらしい。


「あ、あれ、私今日何かおかしい?」


「そりゃ、俺と来ている時点でかなりおかしいな」


何でだろうと頭の上に?マークを浮かべているような顔をしている莉奈。この状況を想像・理解ができないということは自分がこの学年の人気者、アイドルであるということも本当に理解できていないのだろう。


「おい! 雨宮! ちょっと話がある」


「莉奈! ちょっと来て!」


莉奈の天然ぶりを解析していると普段俺がつるんでいるグループの男子に呼ばれた。ちょうど同じタイミングで莉奈も女友達に呼ばれていたのでアイコンタクトで莉奈を女のグループへと向かわせた。変に断っても逆に疑われると考えたからだ。


「さて、僕の大事な親友和也。説明してもらおうか。何を説明すればいいのかは言わなくてもわかるよな?」


晃のオーラはすさまじかった。恨み・妬み・怒りなど負のオーラ満載だった。マンガだったらゴゴゴゴゴゴという背景がつけられるだろう。


「あぁ、佐藤さんとの件だろ? 説明するも何もただ一緒に登校してきただけだろ? 同じクラスなんだしおかしくはないだろ」


こう言うしかなかった。変にごまかすよりもこっちの方が口を滑らさずに済む。


「一緒に登校してきている時点で俺らの敵なんだよ! 佐藤さんと付き合ってはいないんだな!?」


「まさか、さすがに学年のアイドル的存在の佐藤さんと付き合うなんてお前らを裏切るようなことはしない」


「よし、なら今回は許してやろう。だが、もしこのようなことがもう一度でもあったらその時はどうなるかわかるな?」


「そりゃわかんねーな。想像以上のことをしてくるのがお前だからな」


「さすが親友! 俺のことは何でもお見通しですな!」


なんとか晃の信頼を取り戻したところで、なんとなく莉奈の方を見てみる。俺たちとは違い、強く何かを言われるというわけではなく莉奈が話したことに女子は皆納得している様子だ。女子からも人気がある莉奈だからこそ納得してもらえるのだろう。


すると、女子が一人俺の方に近づいてくる。俺はすこし身構えた。


「莉奈に好かれるなんて、ラッキーだね雨宮クン。ま、アタシにはあんたのどこがいいのかわからないけれど。そのうち告られるんじゃない?」


ボソッっと俺の耳元でつぶやくとその女子は莉奈がいるグループに帰っていく。よく見るとそのグループの女子が全員こっちを見てニヤッと笑みを浮かべていた。莉奈だけが何とも言えない顔で俺のことを見ていた。


「どうした、親友。なんて言われたんだ?」


「いや、何でもない」


もしこのことを言ったら本気で殺される。晃の質問をさらっと流した。


「そうか、ならいいけど」


晃も特に気にしているわけではないのか俺の返事を信じたのか突っ込んだ質問はしてこなかった。


その日は一日中女子からの視線が気になって授業もまともに受けることができなかった。


 放課後。


〈私は委員会の仕事があるから先に帰ってて!〉


〈委員会の仕事がなくても別々に帰っていたけどな〉


〈え~、ひどいよ~〉


〈先帰って晩飯の準備してるからな〉


〈了解、シェフ!〉


という、簡単なやり取りをRINEで済ませた後俺は莉奈より一足先に家への帰途に就いた。今日の晩飯は莉奈の好物というオムライスだ。この間晩飯を作ったときにお願いをされていたので今日作ることにした。朝、冷蔵庫の中を見ると卵の在庫が残りわずかだったので帰りに近所のスーパーで買うことにしていた。


「あら、和也じゃない」


「お、まない――」


「柑奈! 何回言ったらわかるのよ!」


「おー、すまんすまん」


ちょうど校門を出たくらいのところで今日二度目の柑奈との遭遇。どうして今日に限って何度も会わなくてはならないのだろうか。


「お前、今日部活は?」


「今日は休みよ」


「そうか、じゃあな」


特に用もないので別れようとする。俺には卵を買うという使命があるのだ。


「じゃあな、じゃないでしょ!」


「へ?」


「私があなたと一緒に帰ってあげましょうか」


「いや、いい。俺急いでるし」


「私がよくない! 急ぎって和也に急用なんてあるはずないわ」


「残念、それがあるんだな」


「何よ、その用事って」


「卵買いにいくという大事なミッションだ」


そう、俺は早くスーパーに行かなければならない。莉奈より先に学校を出たのに莉奈より帰りが遅かったらそれもそれでやばい。


「じゃあ、それ私もついていくわ。どうせ〇〇スーパーでしょ?」


「いや、いい。一人で――」


そう拒否しようとする俺にかまわず


「決まりね、さあ行きましょ」


勝手に一緒に行くことにするのがこの白咲柑奈だ。こうして、俺はいやいや柑奈と一緒に卵を買いに行くことになってしまった。


 あ、そういえば。今朝の莉奈の女友達から言われた、莉奈に好かれているってあいつなんて言ってごまかしたんだろうな。帰ったら聞いてみるか。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人気のあの子は俺の妹 katsu @katsu2424

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ