第8話ゴール直前で…

「和也! これは一体どういうこと! 説明して!」


落ち着いた莉奈の声とは正反対の耳にタコができそうになるほど聞いた甲高い声。少しだけ長い髪を後ろで一つに結んだ、ポニーテールの髪型。身長は160そこそこで身体も以外はしっかりと成長している。


「なんでこのタイミングでお前なんだよ。


「うるっさい! 私には柑奈かんなという名前がちゃんとあります!」


「えーっと、お取込み中ごめんね、和也くん。この人は?」


「ああ悪いな、紹介してなかった。紹介したくもないんだがな。」


「なんですって!?」


柑奈は俺の言葉にいちいち突っかかってくる。まあこいつの性格ならしょうがないんだがな。


「こいつは白咲しらさき柑奈。俺らと同じ高校二年。通称まな板。まあ、こんなもんかな。」


「よろしくね、白咲さん。私は――」


「佐藤さんね、知っているわ。よろしく。どうしてあなたみたいな人が和也と一緒に学校に来ているわけ? まさかあなたたち、付き合っているの?」


柑奈は初対面なんて関係なしに率直に聞いてくる。


「ほらな、やっぱり勘違いされた。どうするんだ? 佐藤さん」


先ほどの俺の予感が的中。そりゃそうなるわな。ちなみに、二人っきり以外の時以外は俺は以前呼んでいたように莉奈のことは佐藤さんと呼ぶ。莉奈には名前で呼んで良いと言われたのだが、カンの良いやつはこんなちょっとしたことで気づくから名字呼びにしておいた。


「わ、わたしたちはその……」


莉奈は言葉が出てこなかった。優しい莉奈は初対面のあいてには嘘はつきにくいんだろう。しょうがない、適当に言ってこの話を終わらそう。変に詮索されるといつ莉奈が本当のこと話してしまうかわからないからな。


「たまたま一緒になってな、別に同じクラスなんだから一緒に来ていても別におかしくないだろ? それともあれか?俺と佐藤さんが一緒に来ていることに嫉妬でもしちゃったのか? 白咲サン?」


「べ、別にそんなことないわよ! あんたが誰と学校に来ようが私には関係ないわ!」


「そうか、その割には全力ダッシュで俺らのもとに来てこの状況を説明しろと言っていたのはどちらさまでしょうか?」


「――ッ!そ、それは……」


柑奈は返す言葉がなくなってしまったらしい。俺らの前で沈黙して困った顔をしている。その目は少し涙ぐんでいる。その顔を見た莉奈は柑奈に申し訳なくなったのかほかの話題をふった。


「そういえば白咲さん、どうして私の名前を?」


「あなたの名前を知らない人なんてこの学年にはいないわよ。下手したら全校生徒があなたの名前を知っているかもしれないわよ? それほどあなたは有名人なわけ。少しは自覚をもって生活した方がいいわよ? いつ変態男子に見られているかわからないからね」


そう、だからそんな莉奈と一つ屋根の下で生活できている俺は相当な幸せ者ってわけだ。


「そ、そうなんだ。なんか少し怖いかも……」


たしかに、変態男子どもに見られているかもしれないっていうのはどちらかというとおとなしい莉奈にとっては恐怖を感じるかもしれない。


「そんなに気にすることじゃない。ただ、全校生徒に見られてるっていうのは確かだからな。変なことしているとすぐにばれるかもな」


「やめてよ~、私変なことなんかしないよ~」


俺の冗談に莉奈は笑って返す。俺たちにとってはもう自然な会話。だが、ほかの登校中の生徒にはどう見えるだろうか。学年のアイドルと平凡な男子生徒が話しているこの光景が。当然、驚愕するだろう。俺たちの横を通る生徒は皆、俺たちを見て羨ましそうな目をしたり特に男子は俺のことを睨んだりしてくる。俺らのすぐ近くにいる一人柑奈を除いて。その視線だけはほかの人とは違う妬みの視線だった。


 学校前で柑奈と出会い、ひと悶着あった後。学校から予鈴が聞こえたため俺たち三人は急ぎ足で教室に向かった。途中、柑奈とは教室が違うため昇降口で別れた。教室に向かっている途中で莉奈はいつもの調子で俺に話しかけてきた。


「白咲さんにばれなくてよかったね~」


緊張が解けたのか莉奈の顔は緩んでいた。


「あいつにばれると面倒なことこの上ないからな」


「そういえば和也くん、白咲さんと随分となれた口調で話していたけど中学から一緒?」


「あいつとは中学からとかそんなものじゃない。幼稚園から小中高と全て一緒。おまけに家も徒歩5分圏内。いわゆる幼馴染ってやつだ」


「そうなんだ~! だから白咲さんも和也くんのこと呼び捨てなんだね!」


そんなことを話しているうちに教室に着いた。ドアは空いていたのでそのまま普段と変わらない調子で教室に入る俺たち。


「おはよ~」


莉奈が普段通り挨拶をすると教室にいた全員が一瞬固まった。そして、


「え、えええええええええええええええええええええええええええ」


と絶叫。


「あ、あれ、私今日何かおかしい?」


「そりゃ、俺と来ている時点でかなりおかしいな」


こうしてやっとのことで教室という名のゴールに着いた俺たち。だが、俺たちを待っていたのはクラス全員からの質問攻めであった。




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