第3話「私」の過去
私は佐藤莉奈。私の両親はとても仲が良かった。家に帰ればママが夕飯の準備をしていて、夜の七時を過ぎると会社からパパが帰ってきてママと私で迎える。食卓には笑いが絶えず、ごく普通な暮らしをしながらもとても幸せな暮らしをしていた。こんな生活がずっと続けばいいなとそんな風に思っていた。
中学三年になると私の受験勉強が始まった。ママは私が行きたいところに行けばいいと言っていたが、パパは塾に通って進学校を目指せと言っていた。そんな、どこの家庭にでもありそうな些細な言い合いで両親は喧嘩を始めた。そのうち仲直りするだろう、と思っていた。なんせあんなに仲が良いのだ。二、三日たてば元通りになると思っていた。
私の考えは甘すぎた。
二、三日どころか一週間たってもなかなか両親は仲直りしない。しかも、日に日に両親の会話は少なくなっていきついには一言も言葉を交えなくなってしまった。私もギリギリまで塾に行くかどうか決断を出せずにいた。そんな私の様子に苛立ちを隠せなくなったのか、
「いい加減どっちにするのか決めろ! 行くのか! 行かないのか!」
「あなた、そんな風に言わなくてもいいじゃない」
ママはこんな時でも落ち着いていた。ただ、普段は見せない冷酷な目でパパを見つめていた。
「お前がそんなに甘いからこいつだって決められないんじゃないのか!?」
怒りの矛先はママへと向けられた。
「そんな、ママは何も悪くないよ……」
私の言葉はパパには届かなかった。届きそうもなかった。
「なんだ? お前も俺には向かうのか。そうかそうかいいよな、女同士仲良くってか。ならこんな家、出て行ってやるよ!」
パパは最低限の荷物を持ち、最後は何も言わずに家を出て行った。
こんな時でもママは、あなたは何も悪くないと私のことは一切責めなかった。これが父親の言う『甘え』というやつなのだろう。ただ、その言葉を聞いた瞬間、大粒の涙があふれてきた。こんな時に泣いてはいけないのに、本当に泣きたいのはママだというのに。
それから私は、ママに甘えなくなった。
父親がいなくなった後の一年は、たまにそのことを思い出してしまい辛くなることもあったが今はもうそんなことはない。父親がいなくなりママは仕事を始めたので私ができることは自分でする。ただ、料理だけはなかなかうまくできないのでそこはママにやってもらう。私とママは協力して生活していた。
そんなある日のことだった。
「莉奈、ママね再婚を考えているの」
「え!?」
急な一言に驚きを隠せなかった。
「驚かしてごめんなさい。でもね、ママもこれから忙しくなってくるしあなたも大学に行くかもしれない。さすがに、ママ一人じゃそんなに稼ぐことはできない。あなただってこんな生活じゃ大変でしょ?」
「うん……」
「明日、ママとお付き合いしている方に会ってみましょうか。あなたと同い年の息子さんもいるそうよ」
「わかった……」
私は不安な気持ちでいっぱいだったが、会ってみなければわからないので会うことにした。
翌日、私はママと一緒にママの再婚相手候補の方に会うためにお相手の家へと向かった。表札には『雨宮』と書かれていた。お相手の方はママより少し年上で、優しくリビングに案内してくれた。具体的な話は息子さんが帰ってからするそうだ。不安と緊張で落ち着いてはいられなかった。出していただいたお茶を飲みながら帰りを待っていると「ただいま」の声が聞こえた。雨宮さんは玄関へと息子さんを迎えに行った。数分後、リビングの扉が開いて……
「さ、佐藤さん!?」
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