第6話 2つの再会

「この石でお前専用の装備を作成する」


「水属性の装備ってどうなるんだ?」


「属性と一言で言っても人によって様々な個性があるから作ってみない限りは分からないな」


「なるほどな」


「ここからは俺も集中して作業に取りかかる、ぶっ続けで叩き続けても最短で丸一日はかかる、それまで待っていてくれ」


「ああ、分かったよろしくな」


「楽しみにしていろよ!!」


 そう残すと足早に店の奥へと消えるラクネス

 余程はやく作成に入りたいのだろう


 そういえばフィレムは……


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あ!やっと出て来た!!」


 外でずっと待っていてくれたようで、突然表情が明るくなる


「悪いな、置いて行っちゃって」


「いえいえ!それでどんな用だったんですか?」


「老師がこのヘカリテに俺の装備を注文したらしいんだ」


「え!?本当ですか!?まぁ、確かにこちらの世界でその黒い服っていうのもおかしいですしね」


 スーツ姿の俺の全身を舐め回すように見るフィレム


「だよな」


「どんな人に作ってもらえるんですか?」


「名前はラクネス、鍛冶師の長って...」


「ラクネス!?あのラクネスですか!?」


 食い気味に聞いてくる


「ああ、そうだけど...?」


「実際に見たことが無いから気が付かなかったけどあの人がラクネス...」


「なんだ、知ってるのか」


「知ってるも何もヘカリテ製でさらにあのラクネスが直々に叩いた武器なんてこの世界ではいくらで取引されているか知っているんですか!?」


「そんなにすげぇやつだったのかアイツ」


「あ!じゃあ、属性見たんですか?」


「見たよ」


「何でした?」


「水だった」


「水ですか〜、これは特訓するのが楽しみですね!」


「やっぱ練習しないと戦闘は出来ねぇか」


「どのくらいで出来るんですか?」


「丸一日くらいかかるらしい」


「かなり早い方です!武器も防具もオーダメイドで丸一日...やはり鍛冶神ヘファイストスの生まれ変わりと謳われているだけありますね...」


「明日のこの時間にここに戻ってればいいんだよな?」


「多分そうじゃないですか?」


「ならトウキョウに戻ってみてもいいか」


「どうしてまた?今戻ってもきっと人々は混乱していてとても安住出来るような場所ではないと思いますよ?」


「いやー、深い理由はないけどね...」


「まぁ、何もしないで過ごすよりかはトウキョウ側からこの世界を眺めるのもいい案かもしれません!」


 絞り出したフォローのアイデアを提案してくれる


「結界張ってるのに出られるのか?」


「基本的には外から中への干渉は不可能に近いですが、中から外なら容易かと思います」


「そうなのか、早速行ってみよう」


 丁度太陽がてっぺんにさしかかったところでもう一度トウキョウへ戻る覚悟を決めた


「それじゃあ転移魔法開始します!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 目を開けるとそこは高層ビルの屋上だった

 やはり転移魔法には慣れる気がしない


「ここに転移したのはフィレムのセンスか?」


「まぁ、高いところは狙いました。私にはトウキョウの土地勘はないので探り探りの転移です」


「ここからならクリエイドラクションもトウキョウも一望できるな」


 クリエイドラクションはドーム型のフィルムのようなもので綺麗に覆われている


「響さん!下見てください!」


「どうした?」


 ビルの下をのぞき込むとそこには暴徒化した人々の姿が見えた

 クリエイドラクションを覆う結界を取り囲む形で暴れている人々が見える

 車も携帯も使えない上、異世界が転生してきたとなれば混乱するのも無理はないと察する

 よく見るとあちらこちらから火の手が上がっているのが見える

 異常なのはクラクションも消防車やパトカーのサイレンも聞こえず、ただ人々の罵声が飛び交っているだけだった


「現世への打撃は相当なものだったみたいですね...」


「ああ...こんな混乱が起きる前に飛び出してしまったから気づかなかったな...」


「お前、何者だ」


 後ろから突然聞こえる声に身構える

 その声の発信者を落ち着いて見ると女性のようだった


「誰だお前は」


「私が先に聞いただろう?」


「俺は響、日宮響だ」


「隣のピンクのやつは?」


「私はフィレムよ」


「お前ら、ここへは転移魔法を使ったか」


 獣人などのような目立った特徴が無いため人間だと思った


「どうしてそれが分かった?」


「つまりはあの中から出てきた訳だな」


「質問に答えろ!お前は何者だ!どうして転移魔法の事を知っている!?」


 レジアムとの1件以来、俺は異世界の事を知る人間ですら恐怖の対象になっていた


「私は霧島海音(キリシマ アマネ)、転移魔法の事はコイツから聞いた」


 指さす方向にはビルのアンテナに座っている1人の緑髪の女性


「え.....?リリアル!?」


 逆光で顔を確かめるのに少し時間がかかったが

 確信を得ると同時に名前がこぼれたようだった


「フフ...久しぶりねぇ...フィレム」


「フィレムあの子の事知っているのか?」


「私と同じ老師に使えている妖精族の仲間でした」


「でしたってどういうことだ?」


「3年前、リリアルはアークメイジが作成したロッドとゼナイト石を奪って消えました」


「ゼナイト石ってあの属性を見る石か?」


「そうです」


「そんな昔話よりも...アナタが面倒を見ているオトコの子はまだまだ成長してないみたいねぇ...」


「今までどこで何をしていたんですか!突然姿を消し、またこうしてこの転生騒動の裏でコソコソと何をしているんですか!?」


 フィレムが初めて声を荒らげる

 その表示は不安と緊張に溢れていた


「フフフ...可愛いわねぇ...そうやって怒った顔も昔と全然変わってない...」


しかしリリアルの表情は冷静と余裕を保っており、その微笑みからは何か冷たいものを感じた


「響さん行きましょう、リリアルは危険です」


「海音、やれるわね?」


「もちろんだ」


 海音が手を空へ掲げると同時にロッドが現れる


「それは...3年前奪ったロッド!!」


「さぁ...始めましょうか」


「響さん!私に捕まってください!転移魔法を開始します!!」


「そういう甘いところも昔と変わってない...いい加減成長しなさい?」


「ハァッ!!!」


 海音が解き放った一撃は転移魔法を途切れさせた


「響さん!」


 強風にあおられ、体が宙を舞う


「グッ...!!」


「私の属性は風、丸腰のお前を消すことなど赤子の手をひねるようなもの!」


「何でだ!同じ人間で異世界の転生に振り回されているのも同じ境遇だろう!?」


「お前のような弱者と、同じにするなァ!!」


 海音の起こした竜巻は見事俺を巻き込み、体中に切り傷を付けた


「やめろ!!」


「やめてください!!」


「黙れ!!このまま消えろ!!」


 海音がトドメの一撃を放とうとすると一筋の電撃の矢が邪魔をした


「何!?」


「アンタは...ヴァイパストか!?」


「待たせたな...響よ...」


「どうしてアナタが...」


「言いそびれていたが私の属性は雷、この弓は久々に使うがな」


「海音、ヴァイパスト相手ではいくら貴方でも歩が悪いわ、ここは一旦引きましょう」


「命拾いをしたな、次は逃がさんぞ」


 突風が巻き起こり、一瞬で2人の姿は消えしまっていた


「どうして俺がトウキョウにいると知っていた」


「強いて言えば勘かのぉ」


 上手く誤魔化したようにも見えたが嘘だと責められる根拠もなかったから追求はしないでおいた


「もうクリエイドラクションには戻らないのか」


「いや、また戻る、私にはヴァイへリスの牧師の仕事が残っているからな」


「どうして俺を助けた」


「私の息子だからに決まっているだろう」


 息子という言葉が俺の頭の中で渦巻く


「そうか...」


「取り敢えずここに居ては危険だ」


「海音とリリアルがどうして俺を狙ったか分かるか?」


「きっとグラドに雇われたんだろう」


「嘘...リリアルが...?」


「ああ、推測だが、3年前老師の前から姿を消した時に既にな」


「リリアルは私達に色々なことを教えてくれた!お姉さんのような存在だった!!この転移魔法もリリアルから教わった!!そんなはずないよ...」


「ただ、今はそうとしか考えられん」


「ならグラドはどうして俺を狙う」


「グラドはどうやらお前とクロイスを会わせたくないようだな」


「クロイスって俺と同じ顔の?」


「ああ、そうだ」


「でもどうして?」


「そこまでは分からん、ただ、レジアムから少し聞いただけだ」


「そうか、ならしばらくは老師の目的地に向かいつつクロイスも探さないとな」


「この転生に巻き込まれていればいいんだが...」

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