第4話 幼少の日の思い出

 何故....その名を...?



 髭は剃られておらず、十字架を首から下げ、髪はすっかり白くなっていて、右目は濁っていた


「何故、その名を知っている...?」


 ゆっくりと老人へと足を送る

 俺の後ろを恐る恐るついてくるフィレム

 その様子からあの者は老師ではないと察する事が出来た


「そうか...もうあれから16年も経つのか...」


 手招きをしている老人


「お前は何者なんだ」


「私は...自分の名は忘れている...しかし、お前の『父』だ...」


 想定外の発言に反応に困る


「何...?」


「これがお前の記憶を見せてくれる」


 震えた手で十字架を差し出す

 それに触れると前のドアの時のように記憶がどっと流れ込んできた


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「貴方のお父さんとお母さんはもう帰ってこないのよ」


 そう小学校1年生の時の俺に強く語りかけてきた祖母


「どうして?」


 目に涙を浮かべ

 祖母を見つめる


「いつか、分かるときが来るわ...それまで強く生きなさい...」


 祖母も涙を浮かべそう言い放った


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 当時の俺にはきっと理解出来ていなかった

 今でもよく分かっていない

 しかし、この目の前の老人が父と名乗るのなら

 考えられることはただ1つ...


「まさか...クリエイドラクションに転生したのか....?」


「見えたか...さすがだな...ヒビキ...

 突然お前の母と共にこの身だけ転生し、衝撃に耐えきれず名を忘れ、ここまで生きてきた...

 ただ...唯一忘れることの出来なかった『ヒビキ』という名...」


「どうして!?16年間もどうしてこの世界を彷徨っていたんだ!」


 語勢が思わず強くなる


「私はヴァイヘリスに選ばれたんだ...」


「どういう意味だ...?」


「現世とクリエイドラクションは表裏の関係にある...

 何年かに1度、この教会ヴァイヘリスが現世の人間を選び

 クリエイドラクションに転生させる

 ヴァイヘリスに選ばれた人間はこの世界からは抜け出すことは出来ない」


「なんだよ...その無責任な発言...」


「お前の記憶が曖昧なのも、ここへと連れてこられたのも、全てきっと私と、私の妻が転生したことに関係しているはずだ...

 何か聞きたい事があるのなら聞いてくれ...」


「ここで俺と同じ顔の奴の結婚式があった記憶は...?」


「言われてみれば...あるな...丁度...この転生騒動の3ヶ月程前に...」


「二人の名前は覚えているのか?」


「確か...新郎はクロイス...新婦はケイネ...」


 何故ドアに触れた時にクロイスの記憶が飛び込んできたんだ....?


 一瞬疑問に思ったが2人のことは老人も詳しく知らなかったようだったから聞かないでおいた


 クロイスとケイネ...

 聞き覚えがある...

 ケイネ.......


「それと...俺の母親はどうしているんだ」


 聞こえるか聞こえないか分からないくらいの小さな声で問いかける


「グラドに連れ去られた...転生したと同時にな...」


「えっ...?」


 フィレムが思わず声を漏らした


「そして彼女はグラドの一員として生きていく覚悟をしたようだった...」


「何言ってんだ...?」


 分からない...

 俺を1度殺そうとした組織の一員に...

 母親が....?


「転生し、グラドに連れ去られ、私の前に一度顔を見せた時、彼女の目は現世の頃とはすっかり変わってしまっていた...」


「16年もグラドで活動しているなら相当な使い手になっているんじゃ...?」


「ああ...ヒビキ....きっとお前がこれから出会うグラドの奴らの中に母さんがいるはずだ...その時は優しく抱きしめてやってくれ...」


「クソ..........クソ!!!!!」


 何も出来ない無力感と目的がはっきりしない旅路から来るストレスが限界を迎えたが

 この転生騒動や両親の事など様々な事が俺の中で渦巻いているせいか不思議と八つ当たりをするような気分にはなれなかった

 というより、そんな事をしている暇は無かった


「響さん...そろそろ行きましょう...ヴァイヘリスにはあまり長居は禁物です、次の目的地へと...」


「分かった...あんた...ここまで何て名乗ってきたんだ?」


「ヴァイパスト...ヴァイヘリスに選ばれた牧師は皆こう名乗るようになっている...」


「そうか...ヴァイパスト...俺はお前をまだ父とは認めていない...

 それだけは覚えておけ...」


「ああ...」


「フィレム、次の目的地は?」


 手紙を取り出すと

 以前のぼやけていた文字が消えて

 新たな文字が浮かび上がってきた

 相変わらずぼけていて、俺には読むことは出来なかったが


「『ヘカリテ』、クリエイドラクションにある有名な鍛冶屋ですね...」


「どうしてまたそんなとこに...?」


「行けば分かります!!」


 勢いよく教会のドアを開け、飛び出すフィレム


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ボス、人間と妖精族の次の目的地はへカリテのようです」


「そうか...へカリテに....」


「どうされますか?」


「私の使い魔を忍ばせておく...気にするな

 何かあればまた報告に来い」


「ハッ!」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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