工場の月
楠樹 暖
工場の月
工場の月は満ち欠けがデジタルだ。
本物の空を無くした僕たちはこの月で我慢するしかなかった。
「あの月にはうちのお父さんの作った部品が使われてるんだよ」
工場の月に部品が使われるなんて対した技術力だ。この子のお父さんはきっといい職人なんだろうな。
僕らが人工ドームで暮らすようになりかなりの月日が経った。もう天然の月を知っている人も少なくなった。
僕は天然の月を見ようとドームを出ることにした。
ドームの外は日中でも薄暗く、スモッグで覆われた太陽も僅かに形が分かるくらいだ。
これでは、天然の月を見ることもできないか……。
青い空を求めて旅を続ける。北の地域で空気が澄んで青空が見られるところへたどり着いた。
そこの街はドームではない、オープンな空の街だ。
これなら夜には天然の月が見られるかもしれない。
宿を借りて夜まで休む。
あたりが暗くなり出したので外へ出て空を見上げる。
月だ。
工場の月ではなく天然の月。
デジタルではなく、なめらかな曲線。
表面の模様も明暗がハッキリしてよく見える。
じいっと見ていると吸い込まれるような。
「月が綺麗ですね」
思わず隣の人に話しかける。
「だろう? この街でしか見ることができない景色だぜ」
「天然の月は初めて見ましたよ」
「天然の月だって? 冗談言っちゃいけないよ。天然の月なんて何十年も前に無くなっているよ」
「じゃ、じゃあ、あの月は工場の月ですか?」
「いや、養殖の月だよ。天然の月には敵わないまでも中々の一品だぜ」
「養殖の……月?」
「ほら」
男が指さす東の空に、第二、第三の養殖の月が昇ってきた。
工場の月 楠樹 暖 @kusunokidan
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