第53話
気がつくと、目の前に顔があった。
紫苑だ。
「あっ、起きた起きた」
見れば魁斗が紫苑の後ろから覗き込んでおり、飛燕はさらに後方でがっくりと肩を落としてうつむいていた。
「おう、あんちゃん。久しぶりだな。また飛燕がやらかしたんだぜ」
なんということだろう。
数ヶ月ぶりに再会したバードウォッチングで違う山に入ったというのに、またも飛燕といっしょに飛んできてしまったのだ。
狭いといわれる日本でも、人と人とが再び偶然に出会うには、充分すぎるくらいに広い。
ましてや人里はなれた山の中で、しかも飛燕がちょうど飛ぶ瞬簡に出くわしてしまうなんて。
確率的にはどのくらいなのだろうか。
細かい計算は出来ないが、とてつもなく低いことは確かだ。
「めんぼくない」
笑って飛燕を見ていた紫苑が言った。
「もうこうなったら、あんちゃんとあたいたち、運命と言うかなんと言うか、とんでもない繋がりがあるのかもね」
「そうそう。もう俺たちの仲間になったら、どうだい」
「それがいいわ」
「ラスボスにも通用する、フラッシュの術という必殺技もあるしよ」
「そうそう」
はしゃぐ二人の間に入って、飛燕がこれ以上ないほどの真顔で言った。
「こうなってはしかたがない。清武さん。またいっしょに来てもらいますよ」
「……」
「そうそう、それがいいわよ」
「話は決まったな。それじゃ、行くぜ」
右と左から魁斗と紫苑に肩を組まれ、清武は引きずられるように歩き出した。
左右の身長がまるで違うので、とても歩き辛かったが。
清武は思った。
今度会社を無断欠勤したら、さすがに首になるだろうと。
しかし清武は、三人の顔を見ていると、なんだかそれでもいいような気がしてきた。
終
鬼哭 ツヨシ @kunkunkonkon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます