二/復讐(?)
「三人に共通点は」
「全然。クラスが同じだったってくらいだ」
「じゃあ実際、復讐ってのに心当たりは……いや」
「誰が何ってのを全然言わずにこれじゃあな、皆心当たりはあるくらいだ。これを書いたどっかの馬鹿もそれをわかっててこんな文章を送り付けてきてんだよ」
実際その通りだった。西門や時の通っていた中学の治安の悪さは折り紙付きで、西門が生徒会長となって以来かなり改善された校内環境でさえ喧嘩で痣や擦り傷切り傷を作るのは日常茶飯事だった。彼らが在籍していた三年間正門前にはパトカーが常駐していたとさえいえばその悲惨さは想像できるだろうか。
深夜の公園で爆竹や花火に点火したり、酒瓶や煙草の吸殻を放置したり、校外でもその素行の悪さはひどいもので、恨みを持つ人間がいないと考える方がおかしいくらいなのである。
だから復讐などという言葉は、ここに集まった彼らに対してだけはほとんど意味をなさない。
「とりあえずこんなんじゃ対策なんか立てようもないしな、何か変わったことがあったらクラスのLINEに書き込む! ってことを確認しようと思ったわけ。オッケー?」
おう、だか、うーい、だか、やる気のない返事が上がってくる。
もしこれがパルタイでなく、普通の人間であるなら、彼らの内に返り討ちにできる者も二三人はいただろう。だが相手がパルタイであるのなら、ただの人間が戦って勝てる相手ではない。死ぬことはほとんどありえないだろうが、その代わり勝つことも、極めて難しい。
「和久田、光生、パルタイの見分け方みたいなのは、何かあるか? こう、わかりやすい特徴? みたいなのは」
和久田は西門を見た。彼もまた言葉を探している様子だった。
「雰囲気が違う、ってのだけは言える」
「雰囲気?」
「実際最初は、雰囲気が違う、っていうくらいしか言えないんだ。それだけじゃないとわかったら、半分くらい手遅れになる」
「超能力を持ってて、スライムみたくなって人間の中に入ったり、でかい鋏を振り回したりする」
「あとは」と、西門が続けて言った。
「腕や脚が光ってた。金色に……多分熱くなってたんだと思う」
「全然ばらばらだな」
締まりのない会合が終わって二十余人がぞろぞろ喫茶青い花を出ていく中、和久田の視線は妙に暗い雰囲気の一人に吸い寄せられた。灰色のパーカーのフードを目深にかぶって、手首まで肌を隠して、濃い色のジーンズを履いている。この集団の中では似つかわしくないほど地味な格好だった。
「あれ……」
「なんだ徹」
「美羽がどうかした?」
西門に続いて小澤も口を出す。和久田は小澤が言った名前を小さく繰り返した。
「美羽」
「なに、ああいう地味なのが好きなの和久田って」
「いや、単に服が地味だなって、それだけ」
「そう。あいつ翠嵐行ったらしいよ」
「翠嵐って、翠嵐? あの中学から?」
パトカーが常駐する中学から県内トップクラスの進学校へ進んだことになる。その胆力は並々ならぬものがあるだろう。
「相当勉強したんじゃないかな、おれもよく知らないけどさ」
彼らは三人して夜の町を自転車漕いで帰った。か細い月が出ていた。
「でさ、光生、和久田。これ、本当にパルタイ関わってると思う?」
直と朱音……久留須直と、長野朱音。八木大我に次いで消えた二人もまた、西門や小澤と同じ中学、同じクラスの人間だった。もしも三人が三人とも、パルタイに拐されているとしたら。
「やばくない?」
和久田と西門は二人とも頷いた。
小澤にはパルタイの知識や直接体を乗っ取られるような経験はない。しかし彼女もまた、彼らを肌で知っていた。だから、パルタイがひとえに「やばい」存在であることはわかっていた。
やばい。やばいが、それは如何にであるだろうか? 三人がパルタイについて知ることはあまりにも少なかった。
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