1-10

夢ではなかったのだ。


クリームパンを食べながら茫然とする宮原を他所に上機嫌の武田。


お互いに話が合っていないのに合っているように感じるのは仲のいい証拠なのだろうか。


午後の授業はどう受けたのか宮原自身も覚えていない。


気付けば放課後になり、クラスメイトは全員帰っていた。


いつもはうるさいくらいに纏わりついてくる武田も用事があったらしい。


連絡アプリで帰るわーと誤変換したものが送られていた。


夕日が優しく教室を染め上げ、2年前と同じ少し冷たく暖かさの混じった春風が宮原の頬を撫でる。


カーテンがふわりと舞い、桜の花びらが教室の中に舞い込んだような気がした。


「久しぶりだね。宮原君」


そう言って声を掛けたのは2年前のあの日、夢の世界の住人かと思っていた女性だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る