1-6

「本当に夢だったんじゃねえか?」


教室に戻った時、女性の姿はなくクラスメイトの中にもその姿はなかった。


親しくなった武田にこのことを話すと桜の姫というなんとも恥ずかしい呼び名を付け、毎回、同じセリフで締めくくる。


「さすがに俺もそう思ってるよ」


この2年間、似たような女性を見かけることはなかった。


「そんなご都合主義のシチュエーションでそんな完璧女子がいるかっての」


自身の希望を打ち砕くように呟くと、宮原はいつの間にか辿り着いていた靴箱で靴を履き替えた。


「でも、あのクリームパン美味かったんだよな」


女性に渡された甘すぎずさっぱりしすぎていない濃厚なクリーム。


2年前に食べただけだが未だにその味の記憶を忘れることができない。


「それともそれすらも夢だったのか」


廊下を武田のふざけた話を聞き流しながら、宮原は溜息を吐いた。

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