迷う

六月のはじめから彼女がばったり学校に出席しなくなると、親しくしていた人間たちは彼女のことを心配し始めた。大西は最初に騒ぎ始めたひとりである。

「いくらメールしても、かえってこないし、電話してもずっと非通知なの。大丈夫なのかな。」

「心配だね。」

彼女が大西と喋る様子を僕はよく見ていたが、それは少し表面的にも見えた。だから、彼女が姿を消したとき、一番に大西が言い始めたのはすこし意外であった。

「立飛は連絡してみた?」

「いや、してないね。風邪かなんかだと思っていたから。」

「ふーん。なら君からもすこし連絡してみてよ。もしかしたら君からなら、何かレスポンスをくれるかもしれないし。」

「わかった。してみるよ。何か帰ってきたら君にも連絡する。」

「了解。それにしても大丈夫かな。あいつこれまでこんなことなかったからね。」



桜に鍵があると思った。

不可解な桜の出現とともに姿を消したのだ。何かそこに秘密が隠されていると推測する。

東京駅で奈良行きの切符を買うと新幹線に飛び乗った。


桜といえば、吉野である、という安直な発想だった。


吉野は桜だらけだった。

山がすべて桃色に染まっている。


しかし吉野に来たところでなにが起こるだろうか。

手がかりがあるわけでもない。


この桜の中でずっと迷い続けるのもいいのかもしれない。

ずっと、ずっと。

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桜の代わりに消えてしまった君へ 沖伸橋 @tgf

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