2、本当に、お題がクセものだよね
「あっ、高校生の賞もあるみたいですよ」
応募要項を見ていると、カクヨムのトップに『カクヨム甲子園』という、高校生を対象とした小説大賞があるのを見つけた。
「これの方が良いんじゃないか?」と、年齢に相応しい賞を見つけて部長に提案してみたけど、部長は面白くなさそうに「ペッ!」と唾を吐いた。
「高校生オンリーなんて清々しいコンテストに、あなたが出ていいわけないでしょ!」
「何ですかその、僕は清々しくないような言い方!」
「あなたが出すのは、『僕とキミの15センチ』で決まっているから。こっちは、昨日今日、小説を書き始めた素人からワナビといった趣味人。さらに、プロまで入り乱れる阿鼻叫喚のコンテストよ!」
「いたって普通のコンテストなのに、なんでそんなにもおどろおどろしく言うんですか……」
阿鼻叫喚とまではいかないまでも、色々な人間が入り乱れるコンテスト。それがネット小説の醍醐味だろう。
気軽に書いて、気軽に投稿。感想だってすぐについて、そこからワナビ同士、時には一線で活躍している作家とだって仲良くなったりもする。
コンテストの募集要項やその他の注意点を読み終えると、プロの作家が二つのお題が入った小説を先行して投稿しているので、それを読みながら
「文字数だって、1万文字から1万5千文字と軽くて、お題さえ克服できれば、結構、簡単に書き上げられるわ」
「あっ!? ってか、もう募集が始まってる」
「そうよ。だから、早く書き始めないと」
始まっているというか、募集からすでに数日経っている。
短編程度の文字数といっても、その分、募集期間が短いし、誤字脱字チェックや推敲をやると結構ギリギリになるかもしれないからよう注意だ。
「でも、賞に出すといっても何を書こう……。次のコンテストに出すためのネタはあるけど、そっちの方のネタは使いたくないし……」
ネタが思いつかないと愚痴ると、加松くんと脇坂さんが勢いよく立ち上がり、各々のお勧めの内容を話し始めてくれた。
「やっぱり、今はファンタジーですゾ! 異世界転生や転移ばかりで下火になったとはいっても、需要はまだまだありますゾ。それに、最近のトレンドは現地人による俺Tueeeeeeか、俺少しTueeeeeeeですゾ!」
「いえ、ここはやっぱり出版社が求めている恋愛ものですよ。先輩の得意分野は現代ドラマだから、そこに少しだけ恋愛要素を入れて――」
でも、ファンタジーは書いたことないし、現代ドラマを書いているけど恋愛ものは読んだことすらない。読んだことがないものを書くのは、無理な話だ。
「あー……でも確かに、ネット小説っていったらファンタジーだよな。埋もれちゃう可能性があるけど読んでくれる可能性も増えるし……」
「でも、最近はネット小説出身で実写映画化された物だってありますよ! それは、ファンタジーではなく、現代物です」
「あっ、それ知ってる」
ファンタジーへ傾倒しそうになった僕を寸でのところで止めた脇坂さんのいう小説は、ネット小説を読まない僕でも知っているタイトルだった。
あれは、タイトルからホラーみたいな感じだったけど、内容は全く違う、タイトルからは想像できない感動作だった。
そう言われると、わざわざ違う土俵のファンタジーに足を踏み入れるより、土俵際でも良いから自分のフィールドで戦いたい。
「やっぱり――」
「人の意見ばっかりで、自分の意見がない奴は――」
「――部長の意見も聞かないといけませんよね」
「――ダメだけど、島崎くんは、まだましな方ね」
合間あいまに部長から酷い言われ方をしたけど、確かに僕は優柔不断だから人の話を聞いて判断したいタイプだ。
こういった時に、部長の話を聞いておくのが一番いい。いや、聞かないと確実に拗ねる。
「それで、部長のオススメはなんですか?」
「この文芸部の話よ」
「ここですか?」
正直、少しだけガッカリした。こんな起伏の乏しい部の話――いや、待てよ?
ただの文芸部員だと思ったら、一人は『触手人間ブルブル太郎』だし、別の一人は『話狂幼人卍』と狂った名前と個性の塊だ。そして、部長は
「フフッ。ようやく理解できたようね……」
マジ、アレな人だし。
「たっ、確かに……。この部は、人間が濃い……ッッ!!」
僕の感想に、濃縮10倍のめんつゆみたいな濃さの二人が抗議の声をあげたけど、僕の耳には届かない。だって、僕はどこにでもいる一般的な高校生だから。
難聴にもなるし、なってやるさ。
「それに、今は作家やイラストレーターといった”お仕事系”の話が流行っているわ。なら、ちょっと特殊な文芸部が賞を狙いに行く話でも良いじゃない」
「文章系の仕事――部活なら、お題だって簡単に
「甘いわよ」
「なにっ!?」
部活ものは下火というか、ほぼ鎮火気味だ。けど、小説を題材にして、これだけアクが強いメンツを表に出して行けばネタとしては十分。
そしてなにより、『15センチ』と『男と女』はすぐに
「あなたと同じことを考えているワナビや作家は、ごまんと居るわ。話がまったく思いつかないにも関わらず、コンテストには出したいと考えた作家が『おっ、文芸部の話を書けば、その中の書き始めのネタで「15センチ」と「男と女」が書ける! そうしたら、お題はクリアじゃないか!』とか意気揚々で書き始めているはずよ。でも実は『書く』のと『お題』は全く違うことに今くらいに気付いたクソザコナメクジが、今ごろ焦って方向修正しているところよ!」
まさか、そんな作家が居るはずがないじゃないか。常識的に考えて。
でも油断は禁物だ。僕も部長に言われるまで、小説の中に「15センチ」と「男と女」という
「そっ、そうか……。僕は、過ちを犯すところだったのか……」
「そうよ」
「でも、そうするとますます、どういった物を書けばいいのか……」
僕みたいな、時間をかけてゆっくりとプロットを考え、書き、そして本編を一気に書いていく人間にとって、すでに始まっている賞に投稿するのはほぼ無理だ。
「それに、15センチって言っても、この微妙な距離感を僕はどう表現したら良いのか分からない!」
なんせ、僕はまだ誰とも付き合ったことが無いんです!
声にならない心の叫びが部室にこだまする。心が叫び――。
「み~んなまとめて、
台詞なのかラノベのタイトルなのか分からない気持ちの悪い言葉を吐きながら、加松くんが僕の肩を優しく叩いてくれた。
「触手くん……」
SAN値チェック入れた方がいいかな……?
「私も、微力ながらお手伝いしますよ、先輩!」
「ありがとう、卍さん!」
脇坂さんの応援は、素直にうれしい!
強力な協力者を得て、僕の投稿用の作品は一歩前進した!
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