第3話
アルたちが壊滅した人間たちの街に到着する半日ほど前。街から北へしばらくの場所。
木々が生い茂るにある森を抜けた先には、広い平原が広がっている。そこに敷かれた舗装されていない道をフードをかぶった男が一人、のんびりと歩いていた。
「待ちなさい!」
上空から大きな声が響いた。だがフードの男は、その声に一切反応せず、そのまま歩いていく。
「待ちなさいって、言っているのよ!!」
シャキン! スパァァァ!!
空を滑空しながら、男を剣で切りつけようとする少女――アムラエル。だが、
バッギィィィィン!!
アムの一撃は、何かに阻まれるように、男には届かない。そのまま滑り込むように地面に着陸し、彼女はすぐ大抵を立て直した。
「おやおや、いきなり斬りかかってくるとは……随分と物騒な娘ではないか」
フードの男はからかうように言う。アムはその言葉を無視し、剣を構え直した。
「お前が……お前があの街を壊したのね? いいえ! お前は帝都も――南方大陸の村や街を破壊して回った張本人でしょ!」
「だとしたら、どうだというのかね?」
アムの言葉に対し、男は静かに返事をする。そこに感情の揺らぎは感じられず、淡々とした口調で言葉を放つだけだ。
「まあ、壊すつもりはなかったのだがね。ただ、少し享楽に興じてみただけのこと。その結果として、いろいろとが壊してしまったのは否定せんがね」
男は何の感情も込めずに淡々と言葉を口にした。
アムはその態度に対して、怒りを隠さない。再び剣を男に向かって、全力で振り抜く。しかし、それも男に当たらない。何度も剣を振るうアム。だが、
ガギィィィィン!! バギイィィィン!!
全ての斬撃が、男の手前で弾かれてしまう。
「しかし、人間共の街……帝都といったかな? あれはなかなか珍妙であった。城は見たことのないほど大きく、それ以外の建造物も巨大であった。まあ、視界の邪魔なので、いくつか排除したがな」
男の言葉に、アムは大きな叫び声で返す。
「誰を敵に回したのか思い知らせてあげるわよ! 疾く行かん、〈俊速の奇跡〉!」
その言葉に反応し、アムの体に刻まれた紋様が光る。
瞬間、アムの姿はその場から掻き消えた。
アムが使用した〈俊速の奇跡〉は移動速度、敏捷性を向上させる効果があった。女性である彼女が、ガッデスを相手に接戦を繰り広げたのは、この奇跡の力の恩恵があってこそだった。
奇跡の発動と同時に、アムは男を目がけて飛び出した。
アムの剣は、確実に男の脳天を叩き割る――と思った瞬間、アムは体を捻り、横へと飛び退く。
彼女の額からは、汗が頬を伝って降りてくる。その目は、地面に空いた穴が捉えた――先ほどまでは存在しなかった大きな穴を。
後ろに飛んだアムを見て、フードの男は感心した様子を見せる。手を叩きながら、口を開いた。
「素晴らしい! 余のこれを初見で避けたのは貴様が初めてだ。防御した者なら一人だけいたが……いや、これは驚嘆に値するぞ!」
嫌味なく、心底アムを褒める男。その態度に彼女は不機嫌そうな顔を浮かべる。
彼女は男に「何をした!」と問うが、彼はニヤニヤとするばかりだ。だが、臆してはいられない。
アムは覚悟を決めて、再び男に向かっていった。正面から突っ込むように見せ、左右にフェイントを入れる。最後の踏み込みの瞬間、大きく左へと飛び、相手の脇腹を目がけての一閃。
ガキィィィン!
アムが振るった剣は、男の脇腹の手前、何もないはずの虚空に弾かれる。
最初に仕掛けたときから、同じことが繰り返されている。何が起きたか理解できないアムだが、今度は相手の背後から襲いかかった。
だが、何度剣戟を放っても、やはり全てが何もない空中に阻まれる。
「無駄だと思うがね。不毛な攻撃をいつまで続行するつもりかな? 今の余は機嫌が良い。逃げるなら追わないでやってもよいぞ!」
男がそう言うと、アムの体に衝撃が走る。アムの体は吹き飛んでしまうが、すぐに体勢を戻す。だが、その目には自分を殴った物体が映らない。
「ぐふっ……何なのよ、これ! 何もないはずなのに、なんで!!」
「何、難しく考える必要はない。ただ貴様に、死が迫っているだけなのだから」
男の口ぶりに、アムは鋭い視線を向ける。
「そう、なら私はそれを退けないといけないわ。二代目勇者を舐めないでよ!!」
アムの体に刻まれた紋様が、先ほどよりもさらに強い輝きを放つ。それと同時に、彼女は男に向かって全速力で踏み込んだ。
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