第3話
ドシュッドシュッ! ガタァァン!!
ルナの翼剣がシルフィとローラの肩を貫き、壁へと押しつける。
「ルナ……お前!」
アルを襲うルナを、シルフィとローラは止めようとした。
ローラの俊足とシルフィの怪力に、ルナも最初は苦戦を強いられたかに見えた。
だが、一人は未熟な少女、もう一人は戦闘経験のない貴族の娘。あっという間に、状況は逆転。ルナは二人を圧倒してしまう。続いて、その眼光は本来の標的へと向けられる。
「さあ、ようやくお前を壊せるな、ニセモノッ!!」
――俺が責められるのはわかる……傷つけられるのも。でも、こんなのは!!
アルは目の前の状況に、頭が沸騰し始めた。
ルナの怒りを受け入れるつもりだった……だが、大切に想う者たちが傷つけられるのだけは、アルには決して許せい。
ヒュンッ! ヒュンッ!
ルナが翼剣で刺突を繰り出す。だが、アルはそれを横に転がりながら避けた。だが、完全には交わしきれず、右の腹部が切れてしまう。
「うっ……!!」
「避けるな!! お前はここで、消えなきゃいけないんだよ!!」
続けて、さらに翼剣の追撃がアルを襲った。
ガキガキィィィン!!
アルの体に翼剣が直撃。が、その攻撃は弾かれる。アルの全身を包んだ魔甲によって。
「それは、父上の!」
「ルナ、お前は……自分が何しているのかわかってるのか! ちゃんと周りを見てみろ!」
そう言いながら、アルは指を差した。
ルナがその先へと目を移すと、肩から血を流し、苦しそうに呻くローラの姿があった。
「ル、ルナ様……正気に戻って、ほしいのでござりま、する。こんなの、ルナ様……らしく、ない」
「そう、ですわ。貴女はもっと嫌味で――冷めてる女でしょう? こんな無茶苦茶な……後先考えないのは……ルナらしく、ありません……わ」
ローラとは反対の方向から聞こえる声に反応し、ルナはそちらに目を向ける。脚から血を流しながら、ルナに笑みを向ける。
ポタッポタッ……自分の翼を伝って滴り落ちる血。その小さな音に、ルナの視線は引き寄せられる。
「これが、お前の望みなのかよ……ルナァァァ!!」
ぼうっとしているルナに向かって、アルは飛びかかった。とっさに後ろへ下がるルナ。
バゴォォォォォンッ!!
アルが腕に纏った魔甲は、床を強く叩いた。廊下は、土煙で覆われ、一瞬視界が閉ざされる。
「大丈夫か? シルフィ!! ローラ!!」
煙が晴れてきた時、ルナは血に汚れて倒れるシルフィとローラを見た。そして、二人を心配し、体を支えるアルの姿も。
「ルナ……お前! よくも、二人を……よくも!!」
アルはこれまでにないほど鋭く、ルナを睨みつけながら言う。ルナは、アルの怒りを感じ、動揺し始めた。
「二人、を……私が? 違うのです!! 魔王様――私は、そんなつもりじゃ」
狼狽するルナだが、アルはそんな彼女を睨み続ける。その姿はさらにルナを困惑させた。
「違う、お前は違う!! その顔で――その目で私を見るな……違うのです。ローラ、シルフィ……ごめんなさい、私は!」
ルナは混乱した様子で、その場から逃げ出してしまう。
アルは、それを追い駆けようとする――が、傷ついた二人が気にかかり、足を止める。
「シルフィ……ローラ、大丈夫か?」
アルの呼びかけに、シルフィが頷く。しばらくして、ローラが返事をした。
「大丈夫で、ござりまする。それより――ルナ様は?」
「どこかに行っちまった。こんな目に合わせて……アイツ、おかしくなっちまってる。このまま、放っておくわけには……」
アルは拳を握りしめた。すると、シルフィがアルの拳を両手で包む。
「何をおっしゃいますの? 早くルナを追いかけて、連れ戻してくださいませ」
シルフィの言葉に、アルは苦しそうな顔を浮かべる。
「無理だよ。アイツは失望してるんだ、俺に。このままじゃアイツ、もっと周りを傷つけて……だからっ!」
「そんなの……ダメでござりまする! ううぅ……」
ローラが声を上げた。傷ついた体で立ち上がり、アルの目を真っ直ぐ見つめて、言葉を続ける。
「私はルナ様が好きでござりまする。でも、魔王様も好きでござりまするよ! 二人が傷つけ合うなんて、そんなの……ダメでござりまする!!」
目に涙を浮かべながらも、ローラは自分の気持ちを口にした。
シルフィも、アルに向かってハッキリと言う。
「そうですわ。まおう様はワタクシのことだって、助けてくださいました。あなた様の命を狙ったワタクシを――なら、ルナのことだって助けられるはず。勝手に諦めないでくださいませ」
シルフィはそう言って、アルの顔に手を添えた。
二人の言葉を聞き、アルはいったん目を閉じる。
ケンカもたくさんしたし、嫌味の言い合いなら数えきれない。それでも、魔王の体になってから、アルをサポートし続けてきたルナ。アルは心から彼女に感謝していた。
そのルナが今、迷いの泥に足を囚われ、自分を見失っている。
――できることなんて、何もないのかもしれない。でも……
苦しんでいる人がいたら助ける。困っている人がいれば手を伸ばす――それが自分の使命だと、勇者アルフレッドは信じてきた。
――諦めていいはずないだろ!
「わかった。俺が必ずルナを連れ戻す」
アルは立ち上がった。その姿を見て、ローラはアルに言う。
「ルナ様はきっと、バルコニーにいるでござりまする。あそこは、ルナ様のお気に入りの場所でござりまするから」
アルはローラの頭を撫でてから、廊下を駆けていった。
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