06-08-02:のどかな山道
参道への護衛を受けてから丁度1ヶ月。シオンとステラは探索者ギルドへやって来ていた。ギルドには登山用旅装に身を包む一団が居り、2人の姿を認めると1人のエルフが前に進み出る。
「あなた方が今回の護衛さんですか?」
「と、いうことは貴方がラピューアスさんだろうか?」
名を告げればやんわりと微笑む柔和な男性が会釈する。男性にしてはなんとも雅な名前だな、とステラはぽやんと考えた。
「いかにも僕たちが護衛を担当します。
「そしてわたしが
挨拶するとラピューアスを筆頭にそれぞれが会釈する。一行に目をやれば男、女、子供、老人、多種多様な一団だとわかる。なるほどここまで年齢や種族がばらつくならば準備に時間もかかろうというものだ。
「では早速参りましょう。時は待ってくれないので」
「承知しました」
こうしてヴォルカニア火山を巡礼する一団はヴルカンの街を出発したのだった。
◇◇◇
旅慣れた様子の一団とは言え、火山道をゆくのは初めてなのだろう。ましてや老人や子供まで居るとなれば旅程は自ずとゆっくりしたものになる。
「お姉さん、お花が咲いていますよ!」
「む、よく見つけたねぇ。あれは疲労回復の薬効が有るから摘んでおこうか」
「はい!」
飛び跳ねるように元気なのはヒューマの少女でオプファという。年の頃10といったところ、素直で優しく、とてもお淑やかな娘なのでステラともすぐ仲良くなった。
「しかしちっちゃいのに巫女だなんて大変だねぇ」
「ううん、そんな事無いよ。みんなが助けてくれるもの」
言葉にとなりを歩くおじいさんがほっこり笑顔を浮かべる。小さいながらに良く気づき、良く気の回る娘であった。出発から3日でシオンが何度冷たい目でステラを見たかわからない程のしっかり者だ。
(うむ、将来は美人さんだなぁ)
どことなく心のオッサンがニンマリと笑顔を浮かべている。いやいけない、今のステラは純然たる乙女である。乙女でなければならない。彼女はニヤけるほっぺをぷにぷにともみほぐした。
ちなみに相方たるシオンは先行して偵察を行っている。いくら魔物や野生生物を見かけない道とはいえ、警戒を怠る理由にはならない。また彼が先行することで確定しているドラゴンという驚異を引きつける事ができる。
今までなら空を飛ぶドラゴンに対して対抗手段を持たなかったシオンであるが、龍魔剣ワールウィンド・ゲンティアナにより事情は変わった。
彼が〈スパーダ〉を含めた本気の剣を振るえば、およそ30メートルは先の岩石を割断できるとわかったのだ。なおこの距離は有効射程距離であり、衝撃だけを伝えるならば約50メートルの距離が期待できる。
結果『鋭すぎて危ない剣』となっているため、普段遣いは鞘ごと殴る形になってしまった。
それでも
ちなみにシオンが隊列を離れるに当たり不安がった一団に、実力を見せるため遠当てのパフォーマンスを行ったのだがこれが大変ウケた。『樹上の果物を遠当てで落とす』など手品のようなものである。
更にステラがむくれて対抗し始めたので、ちょうど一団の小腹に収まるほどの果実が手に入ったのもよい方向に働いた。この対抗戦もそれぞれに声援を送るなどして、なんとも楽しい旅程となっていたのだ。
ふとステラが首を傾げ、ふむふむと頷く。
「……そろそろ休憩かな。この先に広場があるからね」
「そうなんです?」
「うん、わたしたちは何度かこの道を使っているからね。詳しいのだよ」
むっふっふーと笑うステラであるが、正しくはシオンの合図があったからだ。
「シオンくんがお昼の下準備をしてくれているだろうから、着いたらお昼を食べようね」
「はい! たのしみだなー!」
オプファと共に周囲の人々も同様に笑顔となる。なにせ疲れた体に染み入る冷たい水が待っているのだ。これはステラが予め魔法で用意した氷で冷やしたものであり、一団に非常に喜ばれた。火照った体を冷やすのにとても良い。
また食事に関しても無味乾燥な携帯食料だけでは無く、シオンが簡単なスープを作っているのも良い。しかも頃合いを見計らったかのように飲みやすい温度で提供されるのだ。野外という点を考慮しても望外の配慮といえる。
食事が楽しいというのは旅をするにあたりとても重要な要素だ。それが些細なことであれ、楽しみがあるならば足取りも軽くなる。
「さて、もうひと頑張りだ。皆さん頑張っていきまっしょい!」
ステラの掛け声に各々が頷いた。
◇◇◇
「はい、とうちゃーく!」
「皆さんご無事で何よりです」
軽く整備された広場の中央で、シオンが大鍋に火をかけて待っていた。香り立つスープの香りに、オプファのお腹がくぅと鳴る。恥ずかしげに顔をうつむける彼女にステラの口元が綻んだ。
「なに、食べざかりなんだ。たくさん食べよう!」
「……はい」
消え入りそうな声にステラがまたしても苦笑する。実際彼女はよく動き、よく食べるのだから見ていて気持ちが良い。
「干し肉は蒸して戻しておきましたので、柔らかく食べられますよ」
これも嬉しい配慮だ。特に干し肉など食べづらいものを解してくれるなど、通常の
「まるでお貴族さまの遊覧のようですなぁ」
「ほんとう。至れり尽くせりですねぇ」
「旅路で美味い飯が食えるのはいいね、本当に良い」
皆がそれぞれ街と変わらぬ……とまでは言わずとも贅沢な食事を平らげていく。ちなみにステラはオプファの隣で、蒸した黒パンのサンドイッチを頬張っていた。
ただその様子をじーっと見ている少女に気づいて、苦笑する彼女はサンドイッチを半分に分けてオプファに差し出した。
「ほら、一緒に食べよう」
「いいの?」
「むふん! ステラさんはいつもお腹いっぱいだからね。おすそ分けするくらい訳ないのさ」
「……えへへ、ありがとう!」
少女の笑顔にステラもほっこり笑顔になり、夢中ではむはむとサンドイッチを頬張る。なんとも小動物めいて可愛らしく、ついなでてしまうステラであった。
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