06-07:志夢シティ
06-07-01:企画
それを好機と捉えたのは当時代官を務めていたアルマドゥラ。そう、ヴォーパル・ファレノプシに認められし英傑として有名な騎士の1人である。
彼の政策は区画そのものを作り変える事で、街中の町を作り出すという試みであった。それも10年、いや100年先を見越した改革である。この画期的な決断によりヴルカンを鍛冶冶金の街だけではなく、観光の町としても名を知られる事になる。
そう、この小さな町は現代に至るまで長く歓楽街としての役割を果たし、今日も街に多大なる利益を与えて――。
「――などというプレゼンテーションをわたしは一生懸命考えていたんだよ、シオンくん!!」
「はいはい」
「それが蓋を開けてみればどうだ。アルマドゥラさんと来たら説明もそぞろに2つ返事で『やりおれ』だぞ!」
「そうですねー」
「しかもあの区画は今寂しいからとかなんとか、理由をつけて天下御免の免状までくれる高待遇!」
「ですねぇ、はい」
「ていうか何? まだ居ったんかとか言いよるぞあのやろう畜生め!」
力説するステラにシオンは生返事を返す。どうにもまともに受ける必要が見当たらないのだ。彼にとってはなんぞ面白い『催し』という感覚でしか無いのだろう。憤慨する彼女にシオンは告げる。
「結局ステラさんとしてはどうなんです?」
「ふかんぜんねんしょうでしょんぼり……」
「なるほどなぁ」
彼女は睡眠を必要としないが何だかんだ頑張っていたようだし、なにがしか労っておくかと考えるシオンである。いや、しかし労うにも彼女は疲れてさえいないのだから、意味はあまりないのだが。
「まあ御高説はドワーフ大工達にとっておいてください。免状があっても、職人たちは納得しないと動かないですから」
そう慰めるシオンに、ステラはうんと首肯いた。
◇◇◇
だが共通して言えるのはこれらは確かに『作り出されたもの』ということ。
ならば全てを極めし我々にできぬ筈もない。況してやこの世全ての職人たちの頂点に立つドワーフ達、できて当然――。
「――と、焚きつける予定でした」
「なるほどなー」
シオンが生返事を返し、ステラは絶望と憤怒に彩られていた。
「それが集まった彼らと来たらどうだ。クソ巨大な宿作りますといった瞬間、突如目を輝かせて口々に言いやがる。
『やるからには最高の宿が良いのう!』
『ここまでの家屋は造ったことがない、燃えるわい!』
『しかし造るというてもどこからじゃ? 材料からかのう』
などと勝手に盛り上がる始末。ドワーフよ、諸君の矜持はどこへ行ったんや? 気難しい設定は?! きさんら頑固一徹やないんか!」
「今の彼らは最高の技術力を持った子供ですからねえ。妙なプライドが無い分素直ですよ?」
「ああー、滅びを前に色々タガが外れておるーー!」
どうせ無くなるからやんちゃしよう精神である。これが犯罪ではなく『ものづくり』に傾く所が種族らしいと言えば種族らしい。
「まぁ良いじゃないですか。協力が得られるのは良いことです」
「報われない努力もあるとは解っても、しょんぼりなのには変わりないのだ……」
がっくり肩を落としたステラは、しかしぐいと背伸びをしてふんすと鼻息を荒く吐く。
「よし落ち込み終了! 成すべきことを成し、やるべきことをやるとしよう」
「うん、それでこそステラさんです。で、建材などはどうするつもりです? 既存の家屋を流用するにしても限度があるでしょう」
ふふんと自慢げに腕を組む彼女はぴしりと指をたてる。
「フフフ、その点抜かりはない。この世界は石材や木材を家屋によく用いるが、コンクリートはまだ無いようだ」
「それが注目の建材とやらですか」
「うむ、火山灰と石灰に砕いた石に海水を混ぜると固まる。これが千年は持つのだから不思議だよな」
「俄には信じがたいんですが……1つ良いですか?」
「なんだい?」
「海水って何処から調達するつもりですか。ヴルカンは海からだいぶ離れていますよ」
もし海水を樽に詰めて馬車で運ぶとしても量としてはたかが知れている。町1つを造るには到底足りる量では――。
「あるよ、海水。
「は?」
これにはシオンも目を丸くしてステラを見上げる。たしかに此処までに船旅は幾度かしてきたが、何故そんな物を収納しているというのか。
「いや、もし魔物の住処が洞窟だったとするじゃん」
「はい。……って、流し込むつもりですか?!」
「うん、窒息して死ぬよね。楽ちん楽ちん」
「あー……まぁ、はい。
仮に実行したら、その洞窟から漏れ出た塩分で周囲の草木は枯れ果てるだろう。いや、そもそもそんな事を実行しようとする考え自体が異端であるし、ステラ以外に実行は不可能である。
「ちなみにその出処は……」
「ひみつ
「まあそうなりますよね」
なお秘密を追おうとしてもステラの目と耳が逃しはしないため、聞き耳追跡等などは無意味だ。そもそも相手がドワーフなら、その酒臭さで一発で分かる。いや、そもそも『本当の出処』を知りたがるドワーフなど居るのだろうか。それより眼の前に在る事実に食らいついて、研究し始めるのは目に見えている。
「というわけで何の問題もないというわけだよ」
「後世歴史学者が議論を呼びそうです……」
シオンは頭を抱えたが、結局悩むのは自分じゃないから良いかと考えることを止めた。実際に未来の歴史学者が謎の建材の正体がつかめず頭を悩ますのだが、それはまた別の話だ。
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