04-15:スタンピード
04-15-01:Digression>Contingency///スタンピード/スタンドアップ
領主館の会議室に集まったのは領主サイドと探索者ギルドサイド。魔物の
「さて、状況は最悪だ。ステラの情報が正しく、村々が占領されたとなれば……前線はこの街になる。いきなり決戦というわけだね、ハハハ」
卓上の地図に置かれた赤の三角駒が村々の上に置かれ、青の三角駒がウェルスの位置に置かれる。位置的に考えれば半包囲状態と言えた。
「兄上、念の為聞きますが籠城は出来ないのです?」
「守るだけならまだしも維持が難しいね。
如何に
「王都や近隣の領主との連携は……」
「難しいね。ティンダー家は
「こんな時に利権争いですか……頭がいたいですねぇ」
「だからこそ、だね。今のところ王都への救援は要請したが、間に合うかどうか」
故に、とサビオが地図を指で叩く。
「私達は打って出なければならない。街は最終防衛ラインであり、籠城は最後の手段だ」
断言するサビオにフンと鼻息を漏らすのは対面の椅子に座……いや、椅子にまっすぐ立っているグインだ。
「てぇなるとボウズ、どこに布陣するんだァ? 既に魔物の軍団は動き始めているだろうぜ。お行儀よく足並み揃えてなァ」
口火を切ったのはギルドサブマスター・グインである。
「魔物の目的は食い物と女……食いもんはたらふくってぇ所だろう」
「一目散に此方を目指してくるだろうね。なので門は一箇所を除き全て閉じる事にするよ」
「いいのかよ、逃げられないとなりゃ暴動がおきるかもしれないぜ?」
「これ以上は自己責任だよ。流石に防戦中に構うことは出来ない……故に逃げたいなら一時的に門をあける。だが、此方にも余裕はないからね」
クククとグインが潜み笑い、嬉しそうにテーブルを叩いた。
「おう、言うようになったじゃあねえか。一端にはなったかよ?」
「お陰様でね。で、門を背に布陣して迎撃しよう」
「
「連携が取れそうもありませんし、前線で遊撃でしょうね」
「だろうな。命令なんざァ聞きゃしねえ上に軍規なんてモンもねぇ。ボウズの
羽をすくめるグインに苦笑しつつ、気を取り直したサビオが真剣な眼差しを向ける。
「だが最低限の命令系統は覚えてほしいな。相手の策に嵌って大打撃なんて目も当てられない」
「勿論……といいてえところだが微妙なところだなァ。何せ時間がなさすぎる。全体だと『進め』『戻れ』『踏ん張れ』ぐれえだが、従うかは怪しい所だな」
「やはり難しいか……」
本来なら射程に応じて弓師隊、
しかし今回は急拵えかつ、
街の最大勢力がこの有様なのは頭が痛いが致し方ないだろう。
(かと言って衛兵たちを全部前に出すと、コソ泥が跋扈するですよねぇ)
所謂火事場泥棒である。こういった局面では必ず発生するため、街を守るために街を警らする必要が生じるのだ。更に閉じた5つそれぞれの門扉に全く戦力を置かないことも出来ず、『自己責任で逃げ出す者たち』に対する対応も必要だ。
こんな時くらい一致団結したい所だが、出来ないからこそ人なのかもしれない。メディエは軍議を見守りつつ腕に巻き付いたリボンをなでた。
◇◇◇
「アンタバカニャ?」
「そうは言うがな……」
怒る理由は目の前に居るかつての仲間3人だ。困った顔をするのは包帯を巻いたグルトンである。
「でニャきゃ阿呆もいいとこよ? お前に背中を預けるニャんてゴメンニャ!!」
びしぃと指を突きつけられた3人組はびくっと震える。
「だが事実、この事態に協力しなければならんのも事実だろう……?」
「それはわーかってんのニャッ! でも納得できニャいから怒ってるんニャ!!」
むきー! と怒るチャルタをなだめるようにグルトンが撫でる。ステラ仕込みのそれは彼女程ではなくとも、チャルタの怒りを『
「今回はトルペ達も本当に困ってるんだ。今度こそ逃げるまいよ」
「……むぅ」
事実、トルペ達は2つの意味で信用を落とし、新たな仲間が集まらないでいた。
1つ、新種の魔物についての情報が偽報とされたため。
当初ギルド側が調査に乗り出したものの、ステラ達の後塵を拝したために痕跡を発見できなかったのだ。
後に水路街経由で真実が知らされ、情報が公布されたものの事実が浸透していない。
2つ、トルペ達3人が仲間を見捨てたこと。確かに取りうる手段としては『有り』だったが、その後の評価が得られるかと言えば別である。仲間を切るとは単純に信用を失い、追加の仲間を得づらくなるのは自明であった。それでも生き足掻くのが人の性ではあるのだが……。
「なぁ、良いだろう? 最後の頼みだと思ってさ……」
懇願するトルペ達3人は功を焦っている。壁役グルトンとチャルタは勿論脱退を宣言して居る今、ここで名を売らねば立ち行かなくなる可能性が高いのだ。
またチャルタ達も
「……次逃げたらマジ、打ッ殺ニャ……」
ドスの利いた声に震え上がるトルペに、頭をかくグルトンは深く深くため息をついた。
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