04-11-05:Digression>Watershed///序曲
『グラン・クレスター』の面々は
今日は久しぶりの
免除された功績は主にチャルタとグルトンの活躍に拠るものである。トルペ、レント、ピカロの3人は殆ど役に立たなかったのだ。
大体グダグダ文句を言いつつよろしくやっていたのだが……。
もちろんギルドはその点について把握しており、寧ろチャルタとグルトンが可愛そうだからついでに解放されているという事に全く気づいていない。
本当に『己の実力が必要とされたから』と誤解しているのだ。余りの事に、流石の2人も呆れてしまった。
だが少し前も同じ状態だったことを思い出し、とんでもなく悶絶して暴れたくなる衝動にかられる。
ステラが居れば『黒歴史、卒業おめでとう』と
とは言えチームをすぐ解散するわけにも行かず、
仕方なく今までと同じように――チャルタとグルトンは非常にビジネスライクに――探索を進めるのだった。
「――うん、この先に罠はないニャ」
「わかった、進もう」
暗い通路を〈ライト〉の明かりを頼りに一行が進む。陣形は先頭に感知技能の高いチャルタ、防御力の高いグルトン、その後ろにアタッカーたるトルペ、最後にレントとピカロが続く形だ。
久々の迷宮とあり一層の注意が必要とチャルタは認識しているが、後ろの3人はまるで昨日まで潜っていましたとばかりにお気楽である。
一転してお喋りになったグルトンが寡黙に努めている理由がわからないのだろうか。これは本格的にチーム編成を見直すべきかもしれないと彼女はため息を付いた。
ああ、出だしから既に疲れを感じることになるなんて。
(また撫でてくださらないかしら、ステラ御姉様……)
恐らく後ろのグルトンも似たようなことを考えているだろう。気のいいハイエルフの彼女なら、きっと心いくまで撫でてくれるだろう。
本当にあれは気持ちいいのだ。何も考えられなくなって、撫でられるのが凄く嬉しくって、ただ身を委ねていたいという気持ちにかられる。
(いやいや、いかんニャ。集中しないと……)
故に研ぎ澄ました神経が訴えたか、経験が訛っていなかったおかげか。チャルタの首筋に怖気のような震えが走る。
ピタリと足を止め振り返ると、グルトンも同じように後ろを見ている。ゆっくり振り返る彼と顔を合わせると、コクリと頷きあった。
「何してんだ、早く行こうぜ?」
「何かが後ろからくるニャ」
「はぁ?」
トルペが振り向くも、暗闇には何も見当たらない。気配すら感じることは出来ないのか首を傾げいている。それはレントとピカロも同じようだ。魔術的なセンスと、弓師由来の感覚すら何も訴えない。
3人はチャルタの勘違いと決めつけ溜息をついている。
「はぁ。なにかってなんだよ」
「分かんないから『何か』ニャ! 早く構えて!」
「えぇ……?」
「……」
頼りない3人にしびれを切らしたグルトンが盾を構えて前に出る。暗闇の中居る何かがその大盾で防げるかは解らないが、構えないよりはマシだろう。
「何してんだグルトン……?」
無言の彼は何時襲われても良いように盾とメイスを構え、チャルタは全身の毛を逆立たせてナイフを構える。尋常でない様子に流石のトルペも気圧されたのか、おずおずと剣に手をかけ――。
「来たぞ!!」
グルトンの叫びと同時にガキンと盾に衝撃が走る。不可視の闇が噛み付いてきたようで、ガチガチと鳴るそれをタイミングを合わせてシールドバッシュを叩き込む。
「な、な、何だ今の!!」
ようやく武器を構えた3人は怯えつつ周囲を伺うが、しかし暗闇には何の姿も捉える事が出来ない。
「ッチィ! 見えないのが厄介だニャアア!!」
身を翻しつつチャルタもナイフで迎撃する。グルトンも同じなのだろうが、何となく位置がわかるのだ。理由は不明だが、今この場に置いては出来るということが重要だ。
不可視の敵の位置が割れるということは、何よりも強い切り札には違いない。そう、生き残るためには使えるカードは全て切らねばならないのだ。
「こ、これってもしかして……噂の未確認魔物……」
つぶやいたのは誰だったか。誰しもの心に恐怖の毒がとろりと流し込まれる。故に来られるカードの中に……、
「お、お前ら対処できるなら足止めしてくれ! 俺達は先に行くぞ!!」
「ちょっ!」
仲間を切る事も有るのだだ。
「見捨てるのニャ?!」
「俺達は何が起きてるか分からねぇが、お前たちは分かるんだろ! 適材適所だ!」
言ったきりあのアンポンタン共は揃って駆けて行ってしまった。確かに言っている事は分かるが……なんて馬鹿なことをするのだろう。
なまじ見えていないから、背中を見せても恐怖を感じないのだろう。だが自分だったら死んでもゴメンだ。
「ちぃっ!」
防戦一方の展開に焦りが生まれるが、こんな時こそ冷静に考えねばならない。良い方向に考えるとすれば足手まといが居なくなったぐらいか。だが防戦一方の今、打開策が思い浮かばないチャルタは歯噛みする。
「チャルタ」
「何ニャ……っとぉ!!」
今もまた何かの牙を弾いて、ダガーの刃が欠けてしまった。このままでは遠からず折れてしまうか。懐の投げナイフを投擲するもあまり牽制の役に立っているとは思えない。
消耗を強いられる防戦……手を打たねば全滅してしまうだろう。
「先に行ってくれ」
「ハァ? 自分何言ってるか分かってんのニャ?!」
「分かって、ヌンッ!! いるつもりだ」
バチンと弾かれた何かが転がっていく。構えるグルトンはメイスを力強く構えて前に一歩進んだ。
「アンタ、温泉宿の旦那さんになるって言ってたじゃニャい! こんな所で諦めていいのニャ?!」
「諦めたわけじゃない」
「じゃあなんでそんニャこと……」
「セイヤァ!!」
振りかざすメイスが闇の中で火花を散らし、何者かを寄せ付けずなんとか上手く戦えている。
「なぁ……俺達とあいつ等。アレに気づけた違いは何だ?」
「そんなの分かるわけ……」
「明確に違うだろう? 俺達はステラさんの世話になったんだ」
「……?!」
ばかな、と彼女は思ったが……同時に得心が行くのも事実である。実際アンポンタンとの特別な違いはステラという存在に他ならない。
何より気のいい破天荒な彼女は太陽のように明るくて、本当に『特別な人』とチャルタの直感は告げるのだ。
ステラと付き合いがあったから……こうして生き残ることが出来ているのだろうか。だとすればなんと数奇な幸運であろう。
「頼みたいのはただ1つ。ステラさんを呼んで来てほしいってことだ」
「御姉様を……?」
「もし予想が正しいなら、ステラさんならなんとか出来るはずだ。
それに俺は足が遅いからな……チャルタならひとっ走り行けるだろ?」
「で、でも……本当にそうだとは」
「本当だろうよ。何故なら……ソラァ!!」
奮ったメイスが中空で何かに衝突し、迷宮の床に叩きつけられる衝撃が伝わってきた。先程からグルトンは一進一退の攻防を続けている。
それもチャルタの助成なく、たった一人でだ。
「ぐ、グルトン……アンタもしかして」
「どうもぼんやり見えるからな」
「ッ!」
チャルタは暗闇に目を向けるグルトンを見る。普段惚けたような男の顔は今やぎゅうと引き締まり、暗闇の中を正確に見通しているように見えた。
彼は賭けた。そして……覚悟を、決めている。
「…………死んでたら絶対ゆるさニャいから」
「おう、俺は温泉宿を作るんだ」
「……そんときゃ手伝ってやるニャ。だから……絶対に死ぬニャよ」
そう言って、チャルタは身を翻して馳せる。遠く剣戟の音を聞きながら、一歩でも早くあの人を呼ぶために。
全身の力を込めて、
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