04-11-04:我楽多のアリカタ
2人がいつものように朝食のため、1階の食堂で食事を取っていると、見慣れた執事服の男が現れた。ティンダー家に仕える、いつかのリザード使用人だ。
彼の任務は2つ。
1つはシオンとステラを屋敷へ呼び出す事。
もう1つは……。
「シュタルゲア・ウースのご注文ですか?」
コクリと頷く使用人は、看板娘トゥイシに先日の祭で振る舞ったウースを、領主代行がいたく気に入り気に入った旨を伝える。すると彼女は目を金貨にしてカクカクと頷いた。
「お昼にはお届けにあがります!!」
トゥイシはそう言って、ぴゅう跳ねるようにキッチンへと消えていった。
「毎日朝から元気だなぁ」
「原因は大体ステラさんですけどね」
「え、そうかい? やだなぁ、照れるぅ……」
「褒めてないですからね……」
定番の蒸かしテルテリャ芋をもっきゅんと飲み込みつつ、ステラはにふふと笑った。
◇◇◇
屋敷に招待された2人は領主館で1等良い応接間に招かれ唖然としていた。まるで対等の相手を持て成すかの如き応対に、一体何事が起こったのかと混乱する。
いや、混乱するのはシオンだけだ。ステラはよく分かっていないのでのほほんと椅子に座っている。
シオンが脳裏で起こりうるパターン分析に心血を注いでいると、いたくご機嫌なサビオが見るだにウキウキした様子でやってきた。ほぼスキップを踏んでいると言っても良いほど軽快な足取りである。
貴族らしからぬ様子にシオンは警戒を深め、ステラは『嬉しいことがあったんだなー』とぽやんぽやしていた。
「やあ君達、良くやってくれたね!」
「「??」」
一体何を? シオンがステラをジトリと睨んだので、彼女は慌ててブンブン首を降った。これに限っては全くの事実無根である。
「見てもらえればわかるよ、さあおいで!」
パンパンと彼が手を打つとやってきたドアが開かれると、そこから美しい令嬢が姿を表した。背中が大きく開いた、フリルの多いAラインのドレスだ。紙は結うことが出来ない代わりに、大きなリボンの付いたヘッドドレスを身に着けている。
薄く化粧をした彼女はとても可愛らしく、正に乙女中の乙女と言った風体だ。かつ、かつとハイヒールで淑やかに歩いてくる令嬢は二人の前に立つと、背筋をすっと伸ばして佇んだ。まるでおとぎ話のお姫様のように凛として美しい。
この完璧な令嬢……一体何ディエなのだろう。
「一応聞くが……始めましてのほうがいいかな?」
「そう、ですわね。ボ……
彼女はとても綺麗なカーテシーで挨拶する。
ブスカドル式はスカートを大仰に広げる豪華な形なので、ひらひらのフリルも合わさってなんとも華麗だ。
「……ごきげんよう。私、メディエ・サフィール・ティンダーと申します。どうぞ宜しく……」
だが見事な挨拶に反してステラがゆっくり立ち上がり、顔を深刻に暗くして絞り出すような声でつぶやいた。
「……メディエちゃん」
「どうなさいました?」
「拾い食いはよくないよ? 傷んでるから脳に来るときが――」
「違うですからね?!」
ステラは鋭いツッコミに目を丸くして胸に手を当ててなでおろした。
「良かったー、いつものメディエちゃんだ!」
「ばかステラ! 今のボクは淑女モードですから!」
「ふーふふ、小生ばかでーす!」
「むうー!」
一瞬で崩壊した雰囲気の中で、2人はハッと気配に気づいた。具体的に言うと、テーブルに付いた男子2人である。
「「……」」
刺すような視線が実際痛い。
幸いなのは給仕をするメイドたちである。ギリギリ空気扱いなので、責めるような鋭い目線は無いことにできる。でも痛いものは痛かった。
顔を見合わせたステラとメディエは瞬時に視線を交差し、お互いの態度が一瞬で軟化した。特にステラの豹変ぶりが同一人物と思えぬほど令嬢然としてサビオが驚く。
ひとえに『君、そう言う事もできたんだ……』という思いでいっぱいである。意外性ナンバーワンユニット、ステラの面目躍如であった。
「御機嫌ようメディエ様。御加減は如何かしら」
「ええ、よろしくてよ。ステラ様もお元気そうで何よりですわ」
「「ホホホホホ」」
極めて優雅に笑う2人であるが、最早信用度は地を這う勢いだ。株式ではないからストップ安もない……信用とはかくも脆く儚いものなのか……。
すると深い、それはそれは深いため息が都合2つ部屋に響き渡った。
「メディエ、もう一度淑女教育が必要かな?」
「ステラさんもついでに教えて頂いてはどうです?」
「「ももも問題なくってよ!!」」
声を揃える二人は姉妹のように見えた。
◇◇◇
仕切り直して豆茶を嗜みつつ、サビオが『さて』と話を切り出した。
「今回呼び出したのは『メディエの護衛依頼』についてだ。
元々ハーブのつもりになって飛び跳ねる彼女を守って欲しい……という話だったが、こうしてメディエが戻ってきた以上その必要もない。よって依頼完了と見なし報酬を支払おうと思うんだ」
「なるほど、承知しました」
「……何か不満かな?」
「ああ、いやなに……。これで『シェルタちゃん』との冒険も終わりかと思うと、少し寂しくってね」
そうなのだ。護衛が終わるということは冒険も終わりということ。何だかんだ新人冒険者のシェルタとの毎日は忙しくも楽しい毎日だった。
気がついてみればなんだか寂しく――、
「えっ? ボクは続けるつもりですよ?」
「え?」「ん?」「ふぉっ?!」
なるはずだったのだが……メディエの発言にそれぞれが素っ頓狂な声をあげる。
「いや、だから
「「「……」」」
これにステラは『ふわああー!』と嬉しそうに。
シオンは『あちゃー……』と額に手を当て。
サビオは『何言ってるのこの子』と顔が笑顔の憤怒に彩られた。
「これ以上の我儘、兄はゆるしませんよ!」
「ハァァァ……兄上ぇ? 容易に敵の手に落ちるような娘は、
「いやそこは私が守――」
「なので『シェルタ』として今しばらく強さを求めるべきと、ボクは思うのですよ!」
「いやだから――」
これに対しひどく冷酷な、ステラも頬を引きつらせるような冷獄のような視線を投げる。思わずヒクリと息を呑むサビオは言葉をつまらせ、メディエが低い声で続ける。
「聞いたですよ? サビオさん、ボクを攫おうとしたとか……」
「そ、それは作戦で……というかあの、呼び方が」
突如変わった態度で動揺するサビオはなんとも言えず慄く。違う、こんなの
だがハッと鼻で笑ったメディエは話を聞かず、毅然と言い放った。
「サビオさん、嫌いです……」
「 ご フッ!!!!!!!!!」
ステラはサビオが血を吐いて死ぬ光景を幻視した。魂抜けた彼はそのままぺちゃりと机に突っ伏し動かなくなる。
メイドが慌ててやってきて揺さぶるも目を覚まさない。余りに巨大なショックを受けて意識が飛んでしまったのか……彼女たちはシオンとステラに謝りつつ、メディエの鶴の一声で部屋から連れて行かれた。
なんとも
「と言うわけで、もう少しお世話になるですよ!」
「いやまぁ別にいいんだがサビオさんは良いのか?! あれ泡吹いてたぞ……」
「良いんです! 元々兄上は過保護がすぎるんですから、いい薬です」
ぷいと顔を背けるメディエは『悪くない』と言う態度を崩さない。
ああ、これはやっかいなことになったなぁとシオンはため息をついた。
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