04-01-07:Etcetera///宿屋の朝チュン
ちゅんちゅん。朝を告げる小鳥は群体でもって鳴くので、文字通りの可愛げは一切ない。朝餉を探す鳥たちの羽音と合わさり、まるで優雅ではない目覚し時計となって街の人を叩き起こすのである。
夜更かしする者には憎々しい音も、普通に生活する分には非常に有用な朝の風物詩である。
シオンもまた有効活用する1人だ。
パチリと目を覚まして体を伸ばし、凝り固まった筋肉をほぐしてやる。
「……おはようシオン君」
「ええ、おはようござい……ます?」
ステラはすでに目を覚ましていた。眠りを必要としない彼女は、少しの物音ですぐに覚醒できる。野営で役立つ特性であるが、宿という比較的安全な場所で気を張る必要はない。
喧しき鳥のざわめきをいち早く耳にしたのだろうか。それを可能とするだけの聴力を彼女は持っている。
ならばなぜベッドに腰掛け、両手で顔を覆っているのか。心なしぺたりと垂れる長耳が赤いように見えるのだが。
「あの、どうしました?」
「どうもこうもないよ……」
顔を上げた彼女は苦渋に歪み、同時に真っ赤に茹で上がっていた。潤んだ瞳が揺れてシオンをまっすぐ見据える。
「なんだその、なんだ……みんなおたのしみなんだよ」
「あーやはりですかぁ」
『幸せの長尻尾亭』は連れ込み宿ではない。だがそうした情事を認めるのは、女将トゥリープも言っていたことだ。
「うるさくはないんです……でもな、おしころしたこきゅうがアレすぎ……」
「ちょっと落ち着きましょうか」
「そうしたいのはやまやまなんだけどな?」
「けど、なんです?」
彼女は深く、それは深くため息を吐いた。
「現在進行形でハッスルタイムなんだよ……ちなみに隣の部屋だよ」
「わあお」
ハハッと彼女は力なく笑う。耳が良すぎる、感覚が鋭いとはつまりそういうことである。
シオンが荷物からきれいな布を取り出し、濡らした手拭いにしてステラに手渡す。
「なんと言いましょうか……気を取り直していきましょう」
「そうね……うん、そうね」
赤い顔を濡れた手拭いで冷やす彼女は、そう小さく頷いた。
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