03-16-05:レサルフラーレ/六花神剣
2人が顔を見合わせて頷き、シオンが先導して声を上げた。
「貴女がイフェイオン、でしょうか」
『如何にも。
「僕はシオン、あと彼女は――」
「ステラです。宜しく様です」
イフェイオンが頷くようにチカチカと光る。
『剣士シオン、巫覡ステラ了解しました。御用件を伺います』
「僕らは貴女を取りに来た者です。それは――」
『ええ、ジャバウォックの出現ですね? 承知しています』
その言葉にシオンが口を紡ぎ、ステラは首を傾げ……イフェイオンもまた困惑気に核となる結晶をチカチカと光らせた。
『違うのですか?』
「ええ、まぁ……」
「なぁシオン君。ジャバウォックって、件の
「そうですが……特に復活したとか、魔物が動いているなど噂は聞きませんね」
「うむ。小生もそんな話は猫から聞いてないぞ?」
『では何故
巫覡ステラ。猫という事はシストゥーラですね? 彼女は話さなかったのですか?』
その反応に2人が顔を見合わせる。神代の剣らしく、実際に神にも面識があるらしい。
「シストゥーラ様か……聞かなかったよな?」
「……あー、はい。確かに聞きませんでしたね」
「ん???」
そう、質問していないという意味では確かに聞いていない。仮にこれを問いただしたら、『聞かれなんだ故良いのかのうって』等と応えるだろう。
また『すぐに分かる』との真相は恐らく之の事ではないだろうか。
「六花の剣が言うことは真実です。どうやら魔獣が目覚めたようですよ?」
「えっ? それって、不味いのではないかい? たしか絵本ではやたら棘々しいことになってたけど」
「ええ……それも市井に噂として広がっていない点から上手く潜伏している事の査証ですね。
あー、そうなると
まずいな……御館様はご存知なのだろうか」
「えっ? 気付いてないとしたら手遅れ感すごくないかい?」
「といっても忠言差し上げる以上に、何かできるわけではないのですが……」
シオンがうーんと唸り、イフェイオンに向き直った。
「1つ提案なのですが……僕らはアルヴィク公国の現国王にコネクションがあります。
対処についてそちらを紹介しますので、その代わりに僕らに少しだけ協力してくれませんか?」
『協力とは何を指すのでしょうか』
「僕らの目的は剣の入手と一時的な使用です。使用者は……僕ですね」
『一時的な利用? 具体的にお願いします』
「僕の母の魔核に巣食う寄生虫を退治したいんです。そのために
『魔核に? 成る程……それなら
色良い答えに2人が沸き立つが、しかしイフェイオンの答えはまだ続いていた。
『ただし正規
「制限……ですか?」
『はい。制限状態の
その言葉にシオンが眉根を寄せてステラを見る。彼女は頷いてそのバトンを受け取った。
「制限されてないなら可能なのだよな? 具体的なネックはなんだろうか」
『魔核は
この
「
『いいえ。更に
「……これは、すべて解決すれば可能だろうか」
『はい。この2点を
心なし力を込めたその言葉に2人が顔を見合わせ、ふぅとため息を付いた。
「前者は小生がなんとかするが、後者は? ちょっとそこまでのノリで奥義求められてない?」
「……まだ未熟なれど、全力を出しましょう」
「なら、お膳立ては任せておけ。据え膳上げ膳用意してみせるとも!」
サムズアップするステラに、祭壇上のイフェイオンがチカリと光った。
『剣士シオン。
御自身の技能に依存するとはいえ、無理をすれば体を壊します。重々注意を』
驚いたように2人が剣を目にする。相変わらず抑揚のない声だが、内容は人を労る注意である。
「シオン君を心配してくれるのか、イフェイオン?」
『
「……ストイックだなぁ」
ステラの手がマントの下のグラジオラスを撫でる。ストイックだが、本質的には遣い手の役に立とうとするのは一緒だ。星の武器は得てしてそういうものなのだろうか。因みにグラジオラスからステラへの評価は『放っておくと怖い』である。
『所で、両名が
「勿論です」
「いいですとも!」
シオンが予言の紙と、また事情についてざっと説明する。合わせて此処までたどり着いた経緯なども簡単に……極簡単に説明をした。
口に出してわかるが、ほんの2~3日のことが余りに濃い。日記にしたら1冊本が書けてしまうだろう量だ。イフェイオンは淡々とその話を聞き、相槌まで打ってみせた。
特に世界情勢については興味深げに聞いていた。とはいえシオンが市井で知ることの出来る範囲であり、断片的な地理情報でしかない。それでも彼女は満足げにチカチカと光っている。
やがて語り終えたシオンがふぅと息をつくと、イフェイオンは重々しく謝辞を述べた。
『……了解しました。剣士シオンに感謝を』
「いえ、この程度は問題ありません」
「し、小生は? 小生は??」
『特に有益な情報はありませんでした。強いて言えばヤタイドーリの情報が増えました』
「あう……」
がっくり肩を落とした彼女の肩をシオンがぽんとたたく。自分も何か言うべきだろうと慌てて日常を語ったのだが、あまりお気に召さなかったようだ。
だが腰のグラジオラスは『そんなことないわ!』と黄色を返した。イフェイオンは難色を示したが、屋台通りは素晴らしいものだと星鉄の彼女は知っているのだ。
グラジオラスは少し前から、
ただその『わかってないわ!』とぷんぷん怒る気配はステラに伝わるばかりで、イフェイオンには全く届いていないのだ。こうして抜けているところも愛いなぁとステラはニヤニヤ笑うのだ。
『さて、情報共有も致しました。頃合いかと存じます』
「ならすみませんが失礼しますね」
そう言ってシオンが剣身を包む布を腰のポーチから取り出そうとすると、
『それには及びません。
と言って、イフェイオンがしゅぽんと小さくなって小さな花
『剣士シオン、これを首にかけてください』
と、機能が失われた様子もなく語りかける。
「こんなことも出来るんですねぇ……」
「分かっちゃいたけど質量まで変わるとは」
『はい。
シオンがそれを手に取り首にかける。キラリと光るそれはチャームになって似合っていたのだが、彼は鎧の内側に隠してしまった。出しっぱなしでは落とすかもしれないし、何より胸甲に打つかる音が邪魔なのだ。
「よし、取るもん取ったし急いで帰ろうか」
「ええ、急ぎましょう」
恐らく余裕は有るだろうが、彼の機械蜘蛛は何時活性してもおかしくはない。急いで帰っても明日の昼になるだろう。ただ之は最大最速でたどり着いた場合であり、障害があればその限りではない。
そして障害が存在するならこの2人を見逃すはずがない。帰路にて立ちはだかる幾多の影に、2人は強く歯噛みした。
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