03-10-04_BP:Instrument>Files///帰らずの森に関する内部状況報告書、或いはステラの怪霧書

【帰らずの森に関する内部状況報告書】



記者:ステラ(銅級)


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 刻限は明、曜は傾きてなおざわめき至る。

 南の森、浅きて暗いその奥にかの地あり。


 総て傷ましきは銀色の歌。

 かくて遠のきしは填めき叫ばんとす。



 我が供なるはただ2つ。

 衛担うは溶々たる小さき耳の騎士。その鍵の尻尾にかけて誓う。

 威担うは光輝なる漆黒の柔乙女。その萌黄の瞳にかけて誓う。



 かの地は暗く眩い霧のなか。

 地より至りてその天辺を見よ。


 いかに登れど下るに等し。

 いかに進めど戻るに等し。


 総て惑いしは霧の罠か。

 濡れ乾くその地にて狂い叫ばん。


『汝恐れを知らぬものよ、真の形に用心あれ!

 隠したる理、歪みたる姿!

 真を知るに己が足元を見失うことなかれ!』


 黒き乙女の手を取りて、蛮勇のままに突き破らん。



 やあれ狂い堕ちたる霧の先、我らが前に姿をあらはす。



 赤く青きは天なる空に、黒々と燃え凍てる陽と砕け喰らう月の加護は無く。


 ねじり捻り起き上がる大地は沼の乾土をみずみずしく称える。


 かき連ねし老いた若木はくずれうまれ、天を根に地へと伸びやり砕く。


 淀み清らかなる大気は薄ら満ちて踊り、かくて伸ばしたる手の遠からず近からずを惑わす。


『さても姿は悍ましきなりや?

 我がかいなに来たれ、友たる騎士よ。萌黄の乙女よ!

 おお惨たらしきは不相応の意! 厳しきなり! 遍きなり!』


 恐れに走るは無音の嬌声、鳴く無く挙句に追い奉る。




 刻限は明、曜は傾きてなおざわめき至る。

 南の森、浅きて暗いその奥にかの地あり。


 総て傷ましきは銀色の歌。

 かくて遠のきしは填めき叫ばんとす。


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※補遺※


・かの地の探索を行う場合、以下留意してください。

 ・ありのままを受け入れて下さい。

 ・己は己と割り切ってください。

 ・ただ違和感だけを疑ってください。


・霧は真実を隠すヴェールです。脱出を試みる場合、この霧を解除する必要があります。


・内部は空間が歪んでいます。仲間と離れず手をつなぎましょう。


・森で拾ったものを持ち帰ってはいけません。死にます。


・君子危うきに近寄らず。蛮勇にて探索するのはやめましょう。



以上です。


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