03-03-04:武器を求めて子供と遊ぶ
外に出ると果たしてステラはちゃんと居た。
それにはまず安心なのだが、状況がまるでわけがわからなかった。
「ねえちゃんみぎ! みぎだよ!」
「いきすぎだ! ひだり!」
「まわさないと! ああんいきすぎぃー!」
ステラは職人街の子供たちに囲まれていたのだ。
(何がどうなってるんです?)
よく見ると広げたステラの手の上で、属性の塊が正方形のプレートになって浮かんでいた。4枚綴りのそれは組み合わさって一枚の板になっているようだ。例えば棒型、四角形、凸型等、4枚で表現できる形になっている。
それらが平面的に積み重なって、一枚の大きなプレートになっていた。
「次いくよ~」
新しいプレートがステラの目線あたりにパッと出現し、ゆっくりと下に向かって落ちていく。そこへすかさず子供達が声を上げ、みぎだ、ひだりだ、まわれまわれと声を荒らげる。声に応じて落ちていくプレートが動いて、落ちる位置を調整できるようだ。
キャーキャーと楽しげな声はどうも遊んでいるようにしか見えない。というかいつの間に仲良くなったのだろうか。
ふとステラの目線に、長い棒状のプレートが出現した。
「みんなまって、ぼうよ!」
赤髪の女の子が子供達を制し、2人がゴクリとつばを飲む。3人が目の前のプレートに目を向ける。
「いくわよー!」
「みぎみぎ!」
「まわって!」
「いっこひだり!」
「そのまま! そのままー……」
縦になった棒がゆっくりと落ちていき、積まれた板の隙間にするりとおちていく。そうして隙間なくすっぽり収まった途端、ピカピカと光ってプレートが消えた。
後には何も残らず、まっさらな空間が残る。するとステラが、
「ててれてーん! All Clearing Finish !! おっめでとーおっめでと~♪」
と歌い、子供達が
「「「やったーーー!」」」
とお互いハイタッチして互いを称え合った。4列消し、かつ全消し成功の記念である。ステラもそれに混ざってハイタッチしている。
裏側は完全に人力だが仕様は同じ、名付けて
「……ステラさん、何してるんです?」
「おっ、シオン君! 魔法の訓練ついでにみんなと遊んでいたんだ!」
「そっ、そうですか」
あっるぇ~ぼくのしってるくんれんとちがう。そうシオンは主張したかった。
本来は生活魔法を……例えば〘ウォータ〙であれば水球を手のひらに展開し、形を変えたり大きさを変えたり、個数を増やしたりするのが基本練習だ。
端的に言えば粘土遊びであり、延長線上に水遊びなどはあるのだが……断じてこのような高度なルールの元、厳密に設計されたものではない。
(ほんと何してんですかねぇ?!)
しかし皆が楽しそうにしている所、水を差すほど愚かではない。特にこの三人組はシオンも知らない仲ではないのだ。シオンとしてはもう笑うしか無かった。
ステラがバット手を上げパッチーンと指を鳴らすとと、子供達が注目して整列した。
「シオン君にイカしたダチ公を紹介するぜ! 右からリーダーでドワーフのレヴィちゃん!」
「シオンおにいさん、こんにちはです!」
赤髪の可愛らしい女の子がシオンにペコリとお辞儀した。
「続いて土竜獣人のアーネストくん!」
「シオさんこんちゃーす!」
濃茶色の土竜頭の丸いサングラスをかけた少年が、片手を上げて答える。
「最後はハーフドワーフのブルズくん!」
「こんにちはおにいさん」
細身で緑髪の少年がメガネをクイッとやりつつ挨拶した。耳が少し尖っているのは、エルフとのハーフだからだろう。
「以上、職人通りのクールな三人組だよ!」
ババーンとステラが親指を立てると、三人がそれぞれ思い思いのポーズを取った。まるで色気のないうっふんぽーずだったり、もぐらなのに怪鳥の構えだったり、マッドサイエンティストのポーズだったりと締りがないが、この熱いノリの前では全てが肯定される。
都合8つの視線がシオンに刺さり、もう褒めるしか無いなと悟ったシオンが
「お上手ですね……」
と返せば皆嬉しそうに頷いた。
「その、仲いいですね?」
「うむ! 最早戦友……ダチ公なのは言うまでもないな」
「まとりすともだちなのよ!」
「ゆうじょうとどりょくなんだぜ!」
「きぼうはここにあるんだ!」
「なるほどなー……失礼がなかったようで安心しました」
遊びは心の垣根を払う。ステラはその身をもって証明した。シオンが若干疲れて肩を落としていると、ステラが朗らかに問いかける。
「それより話はついたのかい? 折れ直ちゃんは何処だろうか」
「あー……それについてなんですが。レギン親方がお呼びです」
「はぃ?」
ステラが首を傾げる。
「親方って……そのレギンさんは件のハイエルフ嫌いだよね。なんでまた? 小生現れていいの?」
「全然良くありませんね」
「えぇ……なのに呼ぶって、のっぴきならない事態なんじゃ?」
眉根を寄せるステラに、レヴィがスカートを掴んでくいくいっとひっぱった。
「おねえちゃん、じぃじにようじ?」
「
「うん。レギンじぃじ」
「ん? レヴィちゃんは件のレギン親方のお孫さんなのか?」
「そうだよー! じぃじはやさしいの!」
にぱっと笑う少女。他人にとって厳しい頑固おやじだが、彼女にとっては孫大好きおじいちゃんである。天真爛漫なそれは、疑うことを知らない純粋無垢なものだ。
ステラがシオンに目配せする。
「……ここで仲介頼んだら下衆の極みだよね」
「逆鱗に触れるという結果が分かった上で、矢面に立たせたいなら別ですが」
「ざんねーん小生そんな外道じゃありませーん!」
おちゃらけていった後、ステラは深くため息を付いた。
「気乗りはせんが……。あっ、もしかして君もローヴ君も、持ち主が小生だと言い出せなかったのか?」
う、とシオンが言葉に詰まる。
「……お恥ずかしながらその通りです。ちょっと、何が起こるか解らなすぎて」
「あぁ、結果最悪パターンになったのは悪手だったなぁ……」
「面目次第もないですね……」
ステラがぱん、と手を叩いた。
「まぁなっちゃったもんは仕様がない、前向きにプランを考えよう。具体的には――」
「逃げる準備をしましょう」
「それな! フフフ、逃げ足は自信があるンだ、小生!」
両手で親指を立てて自慢する。ところで逃げ出そうとして錐揉み廻転しながら転んで記憶が飛んだハイエルフが居るらしい。それは見事なこけっぷりであった。
そんな暗い雰囲気を察したのか、レヴィが腰に手を当てて部分と鼻を鳴らした。
「ステラおねえちゃん! レヴィがたすけてあげる!」
「ならおれも!!」
「ぼ、ぼくだって!」
三人組が立て続けに声を上げる。気持ちは嬉しいのだが、しかし子供を盾にするなどステラの選択肢には無い。
「残念だが 「のりこめー!」 エッ?!」
「「わー!!」」
「ちょっと?!」
止める間もなくあっという間に三人組はシターの戦槌に消えていった。時として子供の行動力は、世界の何物をも抜き去って駆け行くものだ。シオンの脇を素早くすり抜ける3人は、音もなく開く『シターの戦槌』の玄関をくぐっていった。
慌てたステラが三人組を追いかける。
「ああっ、待ち給え!」
「ステラさん待ッ?!」
シオンはステラも止められず、彼もまた4人の後を追った。
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