03-01-07:アルマリア家にてギルドの話

 お茶会は午後に、実際の調子をみて執り行うと決まった。それまでは時間が有るためステラはかねてより聞きたかった事を聞くことにする。


 場所は屋敷の裏手にもある広い庭である。表にも裏にも庭が有るとかどういう了見といわれたら、一重に公爵家の別邸だからである。

 

 特に馬周りに関する設備も備えるため、裏庭はそれなりに運動できるスペースが広がっている。


「シオン君、前から言っているとおり、小生は探索者ハンターを目指してみようと思っている。

 なら、それに必要なものとは何だろうか」

「必要なものですか?」

「うむ。色々知識が足りていないから、最低基準すら満たせていないのではと思ってね」


 ステラは現状シオンの、正確にはアルマニア家預かりとなっている。だがそれ以上ではなく、食客という格好いい感じのタダ飯喰らいでしかない。


 流石にこのままお荷物であるのは居心地が悪いどころではなく、申し訳無さから胃に深刻なダメージを負うだろう。


探索者ハンターこと自体はとても容易です。

 ただギルドで登録するだけですし、登録料も無利子で前借りできます。

 あとは……登録時に読み書きを求められますが代筆サービスもありますよ」

「やろうと思えば本当に手ぶらで登録できるんだ……間口がえらい広いね」


「ただその分過酷ですし、去る者も多いですけどね」

「となると、が重要なわけだ」


「概ね2つの道があります。


 1つ、ギルドが執り行う講習を受ける。

 2つ、師弟を組み、教えを乞う。


 殆どの人が何方かを選びますよ」


 無論選ばないという道も可能だが、それはある程度の知識と武力を持って、かつ探索者ハンターの危険性を知った者が取る場合だ。


 稀に何も知らず何も持たず、ただ夢だけを胸に往くような輩が出るが……そういった者はごく当たり前に

 情報の重要性を理解出来ないものは自然と淘汰され、気付ける慎重な者だけが生き残る。それが探索者の世界だ。


「ステラさんの場合、僕と師弟を組む形になりますね」

「……そういやシオン君が色々教えてくれるということだったね」

「ええ。実は僕、銀級ジルヴァ探索者ハンターなのです」


 そう言って胸元から銀鎖を引っ張り、銀色の小さな鉄板を取り出した。表面にはシオンの名前と番号が記録されているそれはキラキラと星の様に輝いている。


 探索者制度において師弟制を取る場合、その師は銀級以上を推奨されている。ギルドが認める所の『一人前』が銀級であり、それ以下はよっぽどのことがない限り半人前の未熟者として扱われるからだ。


「なら……シオン師と呼んだほうが良いかな?」

「いつも通りでいいですよ? 寧ろ突然丁寧にされても勝手が悪いです」


「まぁその方が気楽でいいや。ちなみに銀級ってどの程度の実力なんだい?」


「一人前からベテランまで玉石混淆ですね。パーティにしても得意、不得意が出るのも銀級からですよ。僕はソロですがここのギルド長よりお墨付きは頂いていますね」

「ほほぅ」


 シオン曰く、探索者は階級制度を敷いているようだ。


 階級は全て金属で表され、低い順から


 シプリムスチルジルヴァ白金ラティーナ魔銀ミスリル蒼金オリハルコン星鋼メテオラ


 の合計7階級となる。

 なお『金』が無いのは、装飾品としての価値はあれど『装備品』としては有用でないためだそうだ。なら白金はどうかといえば……魔道具の媒体として効率が良いかららしい。

 あくまで冒険者が扱える実用金属を前提とするようだ。


 またパーティーを組んだ場合は、その評価にもこの階級が適用される。


 例えば鉄級のパーティーがあるとしよう。そのパーティーの活動が認められれば、銀級相当として認められる。

 この場合1パーティを1人の銀級として扱い、通常受けられないレベルの仕事を受けることができる。ただしパーティーに所属している最高階級者の一つ上までが限度となっている。


 明確な身分のない探索者はこうした階級こそが武器であり、積み上げたそれは正に鋼の如き誇りである。


「魔銀や蒼金というのは、やはり成れないものかい?」

「そこまで行くとドラゴンスレイヤーですからね。魔銀はパーティー単位で、蒼金は単騎でそれを成すのが条件の1つですから」


 ステラが目をぎょっと見開いた。


「そ、それ人間なのかい?」

「人ですよ?」


 ふと脳裏に鉄塊と謳われた剣を振るう黒剣士を思う。あの戦力が現実に存在するとなれば、確かに単騎で龍ぐらいは殺せるかもしれない。


「目指してなれる……というものでは無さそうだね。憧れる人は多そうだが」

「……ステラさんは良い所まで行きそうですが」


「んな馬鹿な〜。小生、血風刃魔、くれない纏いて獣に愉悦わらふーなんて狂戦士ベルセルクになんざ到底なれるとは思えないんだが」

「何を目指してるんです?」


 シオンがコホンと咳をする。


「そうではなく、普通に魔法使いマギノディールとしてですよ。ステラさんは実質補助具も詠唱も無く魔法が使えますよね。高位の探索者に必要な要件、その可能性は満たしていますよ」

「ほほぅ……」


 無詠唱は珍しいが、高位の探索者に限って言えばそうでもない。一瞬の隙が命取りとなる領域において、いちいち詠唱などしていられないという事情があるのだ。


 故にその領域と同じことが出来るステラは、本質的にそこへ至るためのカードを手に入れていることになる。


「魔法使いか……やはり近接武器は使わない、のだろうか」

「距離という物に圧倒的にアドバンテージがありますからね。その為前衛となる人と組むのが前提となりますが、心得があるにこしたことはありません。

 またステラさんの場合武装して示威出来ないと、街歩きも難しいでしょう」

「ふむぅ……」


 名前を借りた彼の英雄は、ナイフと魔法で戦う軽戦士であった。どうせならある程度そういった扱いも覚えていきたいところだ。


 因みに弓は諦めている。このブツでは弓弦が引っかかって矢が真っすぐ飛ばないだろう。


「ある程度身の護り方を覚えたら、最初は後衛のやり方を学ぶ方が良いですね」

「ふむふむ……なら、得意魔法らしきものを幾つか見繕ってみようか」


 そうしてステラが周囲をキョロキョロと見渡す。


「……ああ、ここで試したくて裏庭なんですね? 大丈夫ですよ、庭師は口が堅い……というか口下手なので漏れることはないです」

「えっ、庭師?」

「ちょっと人見知りが激しいのです」

「なんか屋敷妖精ブラウニーみたいな庭師だね」

「ええ、人魚でいい子なんですけどね」

「ほぅ?」


 ステラが再度見回すが、そのような人は見当たらない。まぁ、シオンが『そのうち』というからには、そのうち見つかるのだろうが……。


「とりあえず……アドバイスがてら見ていてほしい。採用するかどうかも含めてね」

「あまり火力の有るものを使わないでくださいね? 穴だらけにされては困りますから」

「そりゃ勿論」


 【石槍】はこの庭に大穴を穿つだろうし、【火槍】はきっとふかふかな芝生を坊主にするだろう。ましてや【雷槍】など使った日には音が凄くて人が集まる。ステラは苦笑いしつつ、手の内に小さく魔法を構築し始めた。

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