02-03-04:神託の間と『女神』の在処

 剣を拝領する儀式を行うシオンの後ろで、ステラは腕を組み思案する。


(小生が知る『女神』と、シオン君の語る女神……2つに幾つか齟齬があるようだ。いったいどういうことだろう?)


 『女神』は本人曰く女神とだけ呼ばれている。

 シオン曰く一般的に女神といえばイシュターだ。

 だがイシュターという神には顔があり、対して『女神』に顔はない。


 この廃墟が神殿だとシオンに聞いたとき、ステラは『女神』の神殿だと考えていた。転じて『女神』はイシュターであるとも。


 同一ならなぜ『女神』と名乗り、イシュターと名乗らなかったのか。

 なぜイシュターに侍る6柱が『女神』の元にいなかったのか。

 なぜ『女神』には顔が無いのか。


(『女神』とイシュターはイコールでないのかもしれない)


 不同ならなぜ『女神』の存在をシオンは知らないのか。

 なぜ『女神』は自身を名乗らなかったのか。

 なぜ『女神』は『イシュターの神殿』にステラを送ったのか。


(何故、何故、何故。問うてもさっぱりわからんな……)


 少なくともステラの現状を鑑みるに『女神』の力は本物だ。


 世界を産んだ『七栄神セブンス』と、管理する『女神』の関係は分からないが……少なくとも管理を任せる程度には信頼関係があるはずだ。


 であれば痕跡の1つもあってよいはずだが……シオンは『女神』について知らないようである。管理という大任を任せられているにもかかわらず、だ。


(なら知られていない、とかどうだ?)


 よくある歴史の波に飲まれた、というものだ。


 幸いここは遺跡となる程度には古い神殿。痕跡や残滓がもしかしたら残っているかもしれない。

 ステラはシオンの様子をうかがう。熱心に祈る様子を見るに、まだまだ時間がかかりそうだ。


(……ちょっと探してみるか?)


 痕跡があるとすれば正にだろう。

 仮にも『女神』は神であり、祀られるならばここ以外にはない。


 ステラはこっそりと部屋を壁伝いに回り込む。レイアウトからいって、怪しいのはイシュター像の真後ろ、ちょうど死角になる壁だ。


 七栄神が配置されていない唯一の空白地帯、何かあるなら此処に違いない。


(と思ったのに、なんもない)


 とくにレリーフや祭壇などもない、まっさらな壁が広がっていた。少し汚れは見て取れるが、長期間放置されたにしては十分綺麗なものである。


(勘違いかぁ……いや、なんだ?)


 汚れの中に小さな模様が見える……六枚花弁の花の模様だ。やはり何か隠されている。

 そっと手を伸ばし撫でるも……特に何もない。見立ては間違いだったのだろうか。


「ステラさん?」

「ひょえーっ?!」


 両手をあげてびくんと飛び上がる。恐る恐る振り返ると、シルクのような光沢の布を剣に巻きつけ抱えて持っている。


「どうしましたか?」

「あ……そのぉ~」


 どうしたものか。


 確かに気になるものは有るが手がかりがない。これ以上調べても得るものはないだろう。


 仕方ないとステラは頷いた。


「――特に何もないな!」

「はぁ……そうですか……?」

「すまんねシオン君」


 シオンが腰のアイテムポーチに剣をぬるりと仕舞い、彼は手を差し伸べた。何か掌に乗っているわけでもなく一体何を? ステラは首を傾げる。


「ほら、行きましょう。また迷子に成りますよ?」

「おぉ……」


 そうか、自分迷子の心配されてるのか。構われて嬉しいような悲しいような。何にせよステラにその手を取らない理由はない。


 苦笑しつつ手を伸ばし、ふと思いついてにやりと笑いつつ言葉にする。


「宜しく我が騎士カバリエ殿?」

「?!」


 シオンがビックリして目を見開いて固まっていた。


 想定ではヤレヤレ系冷たい視線が刺さる想定だったのにまさかの素対応。マジメに返されては逆に羞恥心が沸き起こってくる。


(ヤンバーイ完全に滑ったァアアア)


 何が『我が騎士殿』だバカヤロウ! 最早黒歴史待ったなし。最早顔を真っ赤にしてプルプル震えることしかできない。


「……ステラさん」

「な、何かな?」


 シオンがどことなく優しい視線で微笑む。


「何か悪いものでも食べましたか?」

「食べてないよっ?!」


「ペッしましょうね? キノコは見極めが難しいですから」

「そんなアブナイの拾い食いしないって! っていうかキノコ好きすぎるだろ君!」


 ならいいですけど、と見事にスルーしつつなんだか優しい視線はとりやめない。


「もう、信用ないなぁ!」

「ある意味信頼してはいますよ?」

「具体的には?」

「食べましたね?」

「それダメな方の信頼じゃないですかヤダァァー!」


 ぴえーと鳴くステラに、シオンはくすりと微笑んだ。


「茶番も済みましたし行きましょう。余り時間を駆けると日が暮れますから」

「き、君も大概良い性格してるな……!」


 むくれるステラはそれでも引かれた手を拒むこと無く付いていく。

 引かれた手の行先は、一体何があるのやら。ぽやんと考えつつステラの足は前へと進んでいった。

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