第5話
こんは大切に櫛を入れ直した化粧箱を戸棚に、そっと仕舞った。
そして布団の上で
後ろ向きに兵十を見つめると、彼に顎を持たれて唇を寄せられた。
軽い口付けを交わすと、細い腕を彼の頭の上に回して微笑む。
兵十は、こんの着物にある
そのまま後ろに倒れ込んだ二人は、仰向けの彼の上に同じ仰向けの彼女が乗る形となった。
兵十は、もう片方の彼女の身八つ口へ、もう一方の片手も差し込み両手を使って、こんの膨らみを下から揉みしだいた。
突起を中指の腹で優しく擦ると、こんから吐息が漏れる。
その声を聞いた兵十は、身八つ口から両手を静かに引き抜くと、こんの着物の襟を掴んで、ゆっくりと前を大きく開いた。
こんは上半身を露わにされて、そっと両腕を着物から抜くと、半裸の自分を抱き寄せる様に胸を隠す。
兵十は彼女の両手首を緩やかに掴んで口付けをしながら、こんが痛い思いをしない様に優しく両腕を広げさせて胸を曝け出させた。
兵十は、こんの首の後ろから覗いて彼女の膨らみの先にある尖りを確認すると、手首から彼の手を離して彼女を自分の身体の上から布団の上へと移して、着ている物を全て脱がしてから、彼が彼女の両脚の間に割って入る様に組み敷いた。
こんは頬を赤く染めながら、上気した艶っぽい表情を見せる。
兵十は、こんを見つめてから、今度は互いに深く強く唇を合わせた。
その後で彼は、彼女の全てを優しくねぶる。
やがて迎え入れる準備の出来た彼女は、彼を優しく身体の上から、ゆっくり押し退けると、自らは四つん這いになり尻を高く上げて全てを兵十の目の前に曝け出した。
そして、こんは頭だけを後ろに振り向かせると、兵十を潤んだ瞳で見つめてきた。
兵十は、その様子に驚いたが同時に酷く興奮してしまう。
彼は彼女に勢いよく覆い被さる。
それから二人は、まるで二匹の獣の様に愛し合った。
こうして、こんは兵十に初めて抱かれた。
そして深夜になった。
こんは身体が疲れていたのに、なかなか寝付けないでいた。
兵十は彼女とは逆に子供の様な安心しきった顔をして、すやすやと寝息を立てて眠っている。
こんは、そんな兵十を優しく微笑みながら見つめた。
そして月が沈んで部屋の中が暗くなってから、こんも静かに眠りについた。
初めて一つの布団で一緒に寝る事にした二人だった。
こんと兵十が同衾する様になってから数日経った、ある日の朝のことだった。
こんは、朝ご飯の用意をしている。
包丁で大根を短冊に切る時の、まな板に当たる軽やかな音が台所に響いていた。
そんな心地良い音で布団に横になっていた兵十が、目を覚ます。
彼が横になったままで見上げると、こんの逆さまになった形の良い尻が目に入ってきた。
兵十は、ゆっくりと起き上がって静かに彼女へと近づくと、後ろから抱き締める。
こんは気配を感じていたので予め包丁を止めていた。
包丁を、まな板の上に置いて目を瞑り、片腕を伸ばして兵十の頭の後ろに回すと、彼の頭を寄せて耳元に囁く。
「兵十……危ないわ? 怪我をしたら、どうするの?」
子供を諭す様に兵十の行為を注意する、こんの表情は柔らかく微笑んでいた。
兵十は挙げられている彼女の腕の脇から彼の腕を回して手を伸ばすと、襟の中へ入れて胸元へと忍び込ませた。
「こんの乳房は、大きくて、柔らかくて、気持ちがいいなあ……」
兵十は、そう呟いた。
「しょうのない人ね……」
こんは微笑みながらも、少し呆れた表情で呟き返す。
しかし愛する人に朝から求められる事を不快には感じずに、むしろ嬉しいとさえ思ってしまった。
「私も兵十の手は、とても暖かくて大好きよ?」
こんは、そう言って唇を寄せると同時に異変に気が付いた。
兵十の手は暖かいなどという生易しいものでは無く、とても熱くなっていた。
彼の息が荒いのも、瞳が潤んでいるのも、興奮の為だとばかり思っていた。
しかし彼は、よく見ると息苦しそうにしている。
こんは彼の額と、彼女の額同士を静かに合わせた。
「……大変! 熱があるわ! 具合が悪いのね!?」
焦っている彼女に向かって兵十は、だらしなく微笑んだ。
こんは茂平に兵十の様子が、おかしいと相談しに行った。
茂平は遠くの町から医者を連れて来てくれた。
兵十は風邪を引いてしまったらしく、大した事は無いから三日か四日でも大人しく寝ていれば治るだろう……と、こんは医者から言われた。
医者は、こんに兵十が汗をかいたら小まめに着替えさせる事と額に水で濡らした手拭いを置いて常に冷やしておく事……下痢をしている訳では無いので、ご飯は粥で無くて構わないから、おかずは栄養のある物にする様にと告げた。
こんは町へ帰る医者と彼を送る茂平に併せて礼を言うと、兵十の看病へと戻った。
栄養のある、おかず……。
こんは悩んでしまった。
栄養があると言えば、獣肉や鳥肉や魚肉が真っ先に思い浮かんだ。
茂平や弥助に分けて貰おうかとも思ったが、なんだかんだ言って彼らには、彼ら自身の生活が掛かっている。
余り迷惑は掛けられなかった。
仕方がない……。
そう決意すると、こんは眠っている兵十を家に置いたままで外に出た。
こんは森の中へ入ると、周囲に人の気配が無い事を確認してから服を脱いで全裸になり、脱いだ服を畳んで木の根元へと隠すように置いた。
兵十から貰った大切な櫛だけは、肌身離さず持ち歩きたいので、飾り彫りによって出来た穴に細くても丈夫な赤い紐を通して首から下げた。
そして彼女は、元の狐へと姿を変える。
久し振りだが上手く出来るだろうか?
いや、やらなければならない。
そう覚悟を決めて、こんは狩りを始める為に森の中の更に深い場所へと向かって行った。
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