第13話 Re:
「生命を感じる……」
「ワタシ、死んだの……」
――
■Starting Process■
Electric power……OK
Bio Check……OK
NPC……OK
Balance System……OK
Frame System……OK
Main Memory……OK
「ねえ、だれにもあげない……」
「なくなったの……」
――
■Self System ■
Route System……OK
Sub System……OK
Damage System……OK
「可愛そう、妨げてあげる……」
「もう逢わない……?」
――
■Tool System ■
REC……OK
The sense of Sight……OK
The sense of Hearing……OK
The sense of smell……OK
The sense of taste……OK
The sense of touch……OK
「CHECK OK……RESTART。Time Required 10h:03m:16s:22f」
「……夢?」
――ブチィ
チューブが乱れ飛んだ。
室内に警告音が鳴り、頭上のLEDが苛立つほど光っている。
「……ここは」
ベッドの上で跳ね起きたワタシは、周りを見渡す。
「……メディケアセンター。……ん、ちがう……か……」
いつものセンターではないにしても、周囲にはどう見てもリストア専用とおぼしき機材が並んでいる。
「そっか、ワタシ……。また、
7度目のリストア、目覚めは過去最悪。
しかし、6度目の時とは違い、アーカイブもメモリも残されている。
「たいちょう……、アデニン隊長は? 何処だ!」
情報が、一気に侵入して来る。
演算機能がオーバーフローを起こし、自動的に侵入を遮断した。
「なんで勝手に……」
その影響からか、急に力が抜け落ち、そのままベッドに倒れ込む。
上を向いた状態で、瞳は天井を映している。
「あっ、あの時の」
その一言が口から出た時、ここが久しぶりに訪れる場所だと、初めて気づいた。
「……あ――なるほど。そうだったのか……」
ワタシの中にあるランダムに積まれたアーカイブ。
その中に一つだけ、デリート出来ずに刻み込まれたアーカイブがある。
かなり昔のアーカイブだったと思う。
17年もの謹慎を受けることになった出来事。
それをメモリに落とし込み、時間が逆戻りし始めた。
◇ ◇ ◇
「どうして指示に従わなかった」
「理由……を聞いてるのか?」
「当たり前だ! 貴様、自分が何をしたか理解していないのか!」
「理解はしている。それは……きっと『人類の為』……」
「なるほど、人類の為か。セリ准尉が遂行した任務は、司令部も高く評価している。だが、それも今日で終わりだ」
「……そうか」
「貴様に謹慎30年を言い渡す。これは
「……了解」
どうでもいい感覚で敬礼をするワタシの横に、一人の男性が現れた。
勝手に焦点が合う。
「そう急ぐな、リナ副司令。UMWOの決定事項だとしても、結果彼女は人類を救ったのだ。そこは評価せねばなるまい」
そう言ったのは、当時軍の最高位だったトレニオン司令官だった。
彼は軍のトップとしては珍しい分類に入る人物で、いつも厳しい顔をしているが、それでいて接してみればとても温厚。
決して上から押さえ込むような態度や意見はしない。
目指す目標が同じでも、必ずしも意思が同じとは限らない。
たしかこれが、彼の口癖だったはず。
そんなトレニオン司令官の言葉に、リナ副司令官が噛みついた。
「ちゃんとした評価!? UMWOで議論した決定事項です。司令官も居たではありませんか!」
「そうだ。でも、彼女は私の部下だ。人事権の裁量は全て私にある。その責任も全て私が取る」
そう言って彼は、リナ副司令官の肩にふんわりと手を置いた。
「今回の件に関して、私は『人類の為』の功績を認め、セリ准尉を昇格とし、少尉とする。とはいえ、この件は当然黙認出来るはずもなく、謹慎17年とする。以上だ!」
「ま、待ってください、トレニオン司令! コヤツのような出来損ないに少尉などと。ましてや謹慎短縮まで……。差し出がましいようですが、進言致します」
俯いていたリナ副司令官からは、想像も出来ない進言が怒涛の如く始まった。
それはまるで、ワタシが殺人事件の容疑者だと決め打ちしたかのような説明で始まり、いかに無能で怠惰な人物かを、間髪入れず続けた。
この時代、殺人は即メモリ剥奪となるコトをリナ副司令官が知らない訳がない。
彼女はワタシを抹消したい?
「あはは。リナ副司令の意見は正しい。いかにも君らしい意見だ。しかし、本当にそう思っているのか? 彼女を本当にそう見ているのか? ならリナ副司令、最高位に成るまでの道は険しいぞ。そうだな、少なくとも君が言った30年間は、私がここに留まり続けよう。君が『人類の為』になる、その日が来るまで」
それを聞いた、リナ副司令官は、何も言えず止まる。
彼女は司令官のポジションが欲しい訳ではない。瞳を見れば判断出来る。
彼女にしてみれば、規律を重んじればこその進言であり、当たり前の決断を下したまで。
二度とあのような
そんな一途な思考がそうさせていたのかもしれない。
しかし、10万人の虐殺を計画、実行した彼の前では、すべての意思が戯言に聞こえるような気がする。
「了解……しました。出過ぎた進言お許し下さい。如何なる処分も覚悟しております」
踵を揃え、音を鳴らし、最敬礼するリナ副司令官。
そんな彼女を眺めてほくそ笑んでいると、彼が近づいて来た。
肩にふんわりと手を乗せられ、
「次は即、メモリ剥奪だ。忘れるな」
と、それだけ言い、横を通り過ぎて行った。
◇ ◇ ◇
きっとそれが、トレニオン司令官との最後の会話だったかもしれない。
それ以降、彼を目にすることはなかった。
謹慎が解けた17年後、司令官の椅子には既に彼女が座っていたからである。
警告はまだ鳴り響いている。
体の自由は奪われたまま。
足音が聞こえ、ワタシの周りで風が起きる。
肌に当たる風は、刺さるような感覚だった。
誰? ドクター?
「おい、君! なんで拘束してない!」
「こ、こんなにも早く目覚めるとは思ってなくて……」
「馬鹿が! 彼女の個体は通常……。もういい、状況確認を優先しろ!」
「あ、はい……」
「おい、どうした!」
「彼女……どうして……。こ、これは! あの……」
「うるさい! 黙って作業しろ!」
「でも、ドクター! 以前隔離ブースで発生し……」
「チッ! おい、ボーっとするな、しっかりしろ! 手遅れになるぞ!」
「は、はい……。今やってます。チュ、チューブが……」
「クソッ、もういい! 遠隔で行う。遮断防壁を緊急動作させる! 退出しろ!」
「ま、待ってくださいよ。司令官の指示なしでは……」
「事後報告でいい! 責任は私が取る。退出しろ!」
警告音が警戒音に変化して、分厚い遮断防壁がゆっくりと閉まりだした。
そして、風も感じなくなっていた。
誰もいない?
急に視野が細くなる。
暗くぼやけていくその中で、刻まれたアーカイブの裏に隠れるようにして、別のアーカイブが現れた。
「これは……あの時ワタシが犯した……」
「そうだったのか……」
『やっとわかった?』
「これが罰か……」
『そう……』
「……」
『
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