第11話 知らないメモリ その一


 「こちらチミン! 隊長! セリ少尉! 応答願います! 個体シグナルが受信出来ません! こちらチミン! 応答願います……」


 苛立ちが声に反映していた。

 それでも彼女は辛抱強く、何度も何度も繰り返す。


 「こちらAW1、オペレーター応答願います! 緊急事態発生! 繰り返す、緊急事態発生! 至急応援要請願う。隊員二名の個体シグナルロスト、応答なし。こちらAW1、緊急……」


 時折酷く揺れる操縦席で、彼女はスタビライザーをオートにし、呼びかけていた。


 ロストした原因は、砂嵐のせい。こうして司令部に連絡が出来ないのがその証拠だ、と。

 二人の個体シグナルが、レーダースクリーンから消えて三十分。

 流石にそのこじつけに破綻が来ていた。

 砂嵐だとしたら、長すぎるのである。


 不安と、どこか悲しみに似た表情をにじませていた。

 

 この時、彼女はまだ二つのメモリが失われたコトを知らなかった……。



 「……こちらオペレ……C。――W1聞こ……か……」


 「こちらAW1、通信状況が悪い。緊急衛星ラインの使用許可願う。緊急事態発生! アデニン隊長及び、セリ少尉の個体シグナルロスト。繰り返す……」


 AW1のコクピットにクリアーな声が届いた。


 「こちらオペレーターSCC。聞こえますか? 現在緊急衛星ラインにて通信中。チャンネルナンバー、OO12N。チャンネルナンバー、オー、オー、ワン、ツー、エヌ。こちらでも個体シグナルロストを確認。現在、二部隊編成で救出チーム派遣中」


 「こちらAW1。OO12N入力完了。対応に感謝する。GPS座標送信中。尚、二名の個体シグナルロスト中。まもなく砂嵐がおさまる。それから捜索任務を開始します」


 「オペレーターSSC。了解。こちらでも引き続き個体シグナルを捜索します。安全を考慮して捜索願います」


 通信が終わると、最後のシグナル地点へ急降下していった。


 徐々に晴れ渡る大地に、上空からでも分かる一つのホールが確認できた。

 それを見たチミンの表情は一瞬にして硬くなる。

 綺麗に丸くえぐられたクレーター。

 ある特定の行動が引き起こす跡だと、分かっていたからである。


 レーダースクリーンにセリ少尉の個体シグナルを示すレッド表示が、点滅し始めた。

 それを見たチミンは慌てて連絡を取る。


 「こちらAW1! オペレーターどうぞ! セリ少尉のモノと思われるスリープ反応を確認! 今から目的地に急行します!」


 「オペレーターSSC。こちらでは確認出来ません。慎重に……」


 最後までそれを聞くことなく、GPS座標をセットし着陸モードをオートにした。

 コクピットから飛び出したチミンは、急いでハッチを開け放ち、そこから身を乗りだすようにして、セリの姿を捜した。


 「生きている! 早く! 早く!」


 焦りを隠せない彼女は、着陸態勢を取ったと同時にハッチから身を投げた。

 10mほどもある高さからの自由落下。

 両足で受け止めた衝撃は、警告表示が出るほどであった。

 破損が大きい右足を引きずりながら、セリの元に掛け寄る。


 「セリ少尉! 大丈夫か! セリ――!」


 「……ッ。ダレ……」


 「私だ、チミンだ! 聞こえるか!」


 「チ……ミン……」


 「スリープか。シップまで担いで行くぞ!」


 チミンは横たわっているセリを肩に担ぎ、着陸したばかりのシップへと走った。


 ハッチから無理に入れようとした時、グラスファイバー製の布が機体に引っかかり、セリの頭から剥がれた。その布は渦を巻くように、大地へと落ちた。


 よく見れば、疑問を呈していたはず。

 汚れ一つ無い、綺麗な布が螺旋を画いているコトを。



 それからしばらくして、二部隊編成の救出チームが到着した。

 応急処置を施されていたセリは、チミンの乗るシップから救出チームのシップへと、迅速に乗せ換えられ、地球を後にした。

  


 チミンは時間の許す限り捜索を続けた。

 ロストした隊長を探す為、人力を尽くしたが、見つかったのは二本のブラスターナイフと、大地に根を張ったバスターランチャー。

 それと足元に転がる、ちぎれたプラグユニット。


 その様が、全てを物語っていた。


 「そうまでして闘う相手……。やはりヤツか……」


 チミンはその場で両膝を着き、バスターランチャーに手を掛けた。

 優しく乗せた手と、錆びた土へ振り下ろされる掌。

 

 俯くその下に、一滴のオイルが落ちた。

 数値化を試みた演算機能が、ERRORを起こした表れだったのかもしれない。




 ж ж ж


 「――人類のなれの果て」

 「――手伝ってくれるか」


 ж ж ж

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