作家と編集は二人三脚?

 というのをたまに聞きます。


 一緒になって作品が売れるように考えるのだから、どっちが偉いとか中心とかではなく、協力関係になくてはならない。


 それはその通りで、まったく同意見なのですが、二人三脚という言葉ははたして適切なんでしょうか。


 名前が前面に押し出されるのは作家で、何かあった時に恥をかくのも作家です。


 責任という意味では同等かもしれませんが、今は訴訟を起こされた時には作家が全責任を追う前提で契約する所もある。


 一人の編集が抱える作家の数が増えているので、責任を等分していては負う責任の割合が大きくなるのだから止む無き事なのですが、


 やはりそれは二人三脚ではないですよね。


 中にはそのくらい親身になってくれる編集さんもいるんでしょうけれど、多くの場合、仕事を始める時は初対面でよく知らない相手です。


 会ったばかりの人間の足を結んでいきなり走らせたらどうなるか?


 まさにその結果がそのまま反映するのではないかと思います。


 もちろん相性の良い場合もあるでしょう。でもそれは運でしかない。


 そうそう足並みが揃う事が無いから運動会の二人三脚は見ていて面白いのです。



 二人三脚の悪い所は、「どちらが主導しているのか?」が分かりにくい所です。


 一緒に作って一緒に責任を取ろう、というのがうまくいく例をあまり知りません。というかうまくいくのは結構稀なケースです。


 片方の名前だけが表に出ている時点で成立していない。


 成立しようのないものを、同等であるかのように見せかける者は僕は信用できない。


 これは僕の運が悪かっただけかもしれませんが、そういう人間は必ず責任は取らず口だけを出す。



 なので僕は二人三脚という図式で物事に当たった事はない。


 僕も原作者つきの作品のシステムを作ったり演出したりした事はあるのですが、僕の認識は少し違っていて、


「馬と乗り手」


 です。


 自分は馬で、原作者が騎手。


 馬は馬、騎手は騎手の役割を逸脱しない。方向を示すのは騎手で、性能を発揮するのは馬です。


 もちろん互いの信頼関係は同じように必要で、相性が合わない事もありますけどね。


 無能とみなした乗り手を容赦なく振り落す事もありますが、少なくとも信頼される事に応えない馬はいません。


 時には騎手の命を守る為に命令に背く事もある。


 大事なのは自分がやるべき事は何なのかをしっかりと意識しておくこと。


 そういう意味合いでは、僕は馬、つまりは参謀としての能力には定評があり、監督をするよりも適しているようです。


 前に出るとどうしても足元が見えなくなるタイプなのです。


 監督をすると、やはり自分よりも優れた参謀がいない。どちらも自分でやる事は難しいのですね。


 相手が望むものは何なのかを見出して形にする、それにはそれの楽しみがあり、実はそれも結構好きです。


 中には「自分の作品を横取りしようとしているのか?」と警戒する作家さんもいますが、その懸念は当然で世の中にはそういう人の方が多いのです。


 それこそ飲みに行って裸の付き合いができれば手っ取り早いのですが、今は中々そうもいかない。

 昔はよく一緒にカラオケや温泉に行って親睦を深めたものです。



 現場によってはこっちに仕様を切らせるくせに作家と会せようともしない所もあり、そういう所はまずダメです。


 相手を一目見る、一言言葉を交わすだけでも随分相手の事が分かるものです。


 まず大事なのは直に顔を突き合わせる事。



 とある映画で印象的だったシーンがあります。


 傭兵部隊のチームに案内役として人員(主人公)が追加される。


 チームの隊長と顔を合わせた時、隊長が横にいた隊員に言う。


「コイツにオレの事を教えてやれ」


 隊員は隊長の産まれ、育ち、家族構成、初恋の相手とそれがどうなったか、友人関係など個人情報を全て言ってのけた。


 隊長は主人公に詰め寄って言い放つ。


「これがチームだ。ここにいる奴らは絶対に仲間を見捨てない。アンタはよそ者だ。チームじゃない」


 そこまで知り合ってこその仲間だというわけですね。


 命を預けあうほどでなくても、やはりそれに近い物は必要でしょう。


 中には仲間に入れるまいと露骨に予防線を張ってくる者もいますが、とどのつまりそれは手柄を独り占めしたいという欲に過ぎないので、


 そういう現場で親身になる事はむしろ不都合しか生まないので、ただ仕事だけをする事になります。

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